日本人が知らないMBAの真実──努力とお金をムダにしない必要条件とは
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さらにアメリカの上場企業における管理職等の最終学歴を見ると、データは古いが約4割をMBA取得者が占めている。一方の日本企業は、そもそも役員等のうち大学院修了者が5.9%しかいないというデータがある(従業員500人以上の企業)。
今やグローバルな基準ではMBAはビジネスエリートを養成するコースとは見られておらず、自動車免許のように「経営管理者なら取得していて当たり前」の中間管理職コースになってきているのだ。「あなたの自動車免許はどちらの自動車学校で取得されましたか?」と言われることはまずない。MBAも、この様になっていくだろう。上級管理職はDBA(Doctor of Business Administration、経営管理学博士)を目指す。この点でも日本はアジア及び世界から遅れている。
主要国の人口100万人あたりの修士号取得者を見れば、日本は569人で圧倒的に少ない。MBAの領域である社会科学分野では更に悲惨な数字を示している。これではグローバルなビジネスの現場で共通言語が成り立たず、日本が世界から遅れを取っても不思議ではない。MBAが「必要なのかどうか?」の議論は20年も前に終わっているのだ。
MBAを取得できるビジネススクールはどこか
そんな日本でもMBAを取得しやすくなったことは非常に喜ばしい。しかし、ビジネススクールを選ぶ際には気を付けなければいけないことがある。
それは2003年から文部科学省によって創設された専門職大学院制度の存在である。各専門分野の高度な知識・技能を実社会で活用することをテーマに、実務家の育成を主な目的とした大学院で、日本版MBAとも呼ばれている。
現在、全国の国公立・私立を中心とした大学に、専門職大学院(ビジネス・MOT)として認可されたビジネススクールは32校ある。この専門職大学院で授与される学位は「○○修士(専門職)」といい、14種類以上存在するがMBAではないので注意しなければならない。
日本の大学のこの分野の取得学位は正式にはMBAではなく、多くの場合、日本語表記による「経営学修士」となり、専門職大学院ビジネス系では「経営学修士(専門職)」(代表例)という奇異な学位表記になる。日本独自の制度である。
更に混乱の元になっているのは、14種類もの学位表記が存在していること。入学者の一部がこうした事実を正しく理解せず、日本の有名大学だからMBAだろうと信じ込んでいるケースもある。仮に学校側のインフォームド・コンセントが十分でないなら問題だろう。例えば専門職大学院学位と言わずにMBAを強調していては、入学者にとって情報が十分とは言えない。
(参考:専門職大学院一覧(令和2年5月現在)文科省高等教育局専門教育課参照)
なぜこのようなことが起きるのかというと、それは第三者品質保証の問題があるからである。そもそもMBAという学位は日本の学校教育法には定められておらず、文部科学省も管轄・関与していない。文科省に認可されている日本の大学院の学位表記は、正式には全て日本語である。誤解を恐れずにいうならば、多くの日本のビジネススクールが謳っているMBAとは「自称MBA」に過ぎず、有名大学のビジネススクールだからといって世界基準で評価されるMBAが取得できるとは限らない。
ビジネススクール選びはますます難しくなりそうだが、実はグローバルではMBAの概念はしっかりと確立されており、世界にはビジネススクールの品質を定める第三者品質保証機関(国際認証機関等その他)がいくつもある。そうした認証・保証を受けたMBAなのかを前もって確認することが重要なのだ。
世界的に知られている機関としては、マネジメント教育に関する認証をしているアメリカの国際マネジメント教育協議会(AACSB)や、EQUISとEPASという2つの認証を発行しているベルギーの欧州経営開発財団(EFMD)、イギリスの MBA 協会(AMBA)などが挙げられる。ただしこれらは民間である。
さらに国家的教育保証といわれる英国高等教育品質機構(QAA)の教育評価を受けている、英国国立の各大学などで授与されるMBAもグローバルで通用するといえるだろう。MBAは経営管理学における世界共通言語なのである。日本版・日本流MBAというものでは意味がない。例えば、日本国内の修士号を取得して海外博士コースに応募した人が、その学位及び内容と、博士で求めるものが合致しないという理由で拒否されたケースがある。文科省のガラパゴス的な日本式教育の弊害の一例だ。
(*諸外国において日本の制度、日本特有の学位等に関する情報・理解不足──在外公館、日本の事業採択校等からの報告に基づく)
国内企業においてもMBA取得者のうち15%ほどが昇給や昇進、給与や手当といった処遇の変化を経験しており、経営管理部門への配置や希望の部署への配置転換など、MBAの取得によって何らかの形で変化のあった人の割合は約53%に上る。認証を受けた海外大学のMBA取得者で、採用側の外資系事業部門長も同様のMBA取得者であった場合には、もっと数字の上昇が期待できるだろう。
資料:株式会社工業市場研究所「国内外の経営系大学院及び修了生の実態並びに産業界の経営系大学院に対するニーズ等に関する調査」、平成29年3月(文部科学省委託調査)
グローバルで通用するMBAを取得する方法
さらに、ビジネススクールにおける教員の質も見極める必要がある。MBAコースにおいて学生は投資家であり、教員は先生様ではないため、教員は学生が投資した授業料以上の価値を返さなければいけない。教員は知的仲介者かつ学習の案内人であり、教員が先生様という目線で学生に接する姿勢は、本来ありえないものだ。
そのために教員はファシリテーター、コンダクター、エンターテイナーとしても通用しなければいけない。そうしたスキルがなければ、ディスカッションと言っても単なる座談会で終わってしまう。教える内容が専門的であっても、世界基準であるMBA教育が日本流になっていたのでは大きな課題である。
海外のビジネススクールでは、ダイバーシティというクラス構成によって"うねり"が生まれ、例えばディスカッションで学生たちは教員に色々な考え方から建設的反論をし、教員の論理を否定して責め立てたりすることも稀ではない。だが、教員はあらゆる能力を駆使して巧みに捌いていく。この緊張関係がキーでもある。日本に、海外の教育機関でMBAのteaching プログラムを受けた教員がどれほどいるだろうか。