最新記事

貿易

レアアース禁輸拡大で墓穴掘った中国

日本だけでなく欧米にまで禁輸措置を拡大した仰天行動の背景にある中国の未熟な論理

2010年10月21日(木)17時39分
ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院教授)

自衛措置 レアアースの回収を待つ中古のCPU(東京・千代田区のリーテム社、10月15日) Toru Hanai-Reuters

ニューヨーク・タイムズ紙は19日、中国が日本だけでなく欧米までレアアース(希土類)の禁輸を拡大したと伝えた。


 この中国の行動により......すでに高まりつつある貿易および為替問題での欧米との緊張はさらに高まることになりそうだ。(中略)レアアースの供給停止措置は、中国政府および指導部が、強まりつつある中国の経済的影響力を利用しようという意志の表れだ。

 業界関係者によれば、中国の税関当局は月曜日の朝から、従来よりも広範な規制を課すようになったという。

 中国が貿易に関する姿勢を硬化させたのは、米通商当局が15日、環境関連技術に関する中国の輸出補助金や輸入制限が世界貿易機関(WTO)の規則に違反していないかどうか調べると発表してからだ。


 この記事が正確だという前提で話を進めると、中国政府の行動を説明するには3つの仮説が考えられる。

 まず1つ目は、これはあくまで中国の内政に起因する問題だという仮説。ニューヨーク・タイムズの記事によれば、欧米へのレアアース禁輸が決まったのは中国共産党の第17期中央委員会第5回総会(5中全会)の後だったという。

 人民元の切り上げを迫る欧米との緊張が激化し、またアメリカがWTO提訴に向けて動き出す中、一部のナショナリスティックな反発を抑える必要があったのかもしれない。もちろん、中国の国内政治の実情がどんなものか本当にわかっている人間などいないから、この説の信憑性は誰にも分からない。

中国指導部が私の著書を読んだ?

 2つ目の仮説は、私の著書『制裁のパラドックス』を中国指導部が読んだ、というもの。この本の中で私は、制裁を課した国と課された国の間で将来さらに対立が強まる可能性が高い場合、両国は互いに経済的な圧力を掛け合うものの、結局は最低限の譲歩しか引き出せないと書いた。

 今のところ、この理論は現実にうまく当てはまっている。レアアースの対日輸出を制限した中国が得たものは、漁船の船長の解放だけだった。たぶん中国側は、レアアース禁輸の拡大によりアメリカ政府がWTOへの提訴をあきらめると期待しているのだろう。禁輸拡大という今回の措置から期待できる成果なんてその程度のものだ。

 3つ目の仮説は、経済的影響力をいかに行使すべきかについて、中国は愚かしいほど近視眼的な考え方をしているというものだ。清華大学(北京)のパトリック・チョバネク准教授はこう書いている。


(中国は)自ら墓穴を掘っているようなものだ。比較的ささいな事件で力を誇示しようとするあまり、貿易相手国を驚かせ、たぶん遠くへ追いやってしまったのだ。

(中略)ひとえに為替レートのおかげとはいえ、世界で最も安上がりにレアアースを採掘できるのが中国であることに間違いはない。

 だが今や、中国の貿易相手国は深刻に悩んでいるに違いない。(さまざまなリスクやそれに伴うコストを含め)いったい中国はどこまで値を吊り上げるつもりなのだろうと。


「中国外し」が始まる恐れも

 一次産品をめぐる対外政策を見ていると、中国政府は資源を物理的に支配することだけを重視し、市場の力を甘く見ているのではと思えてしまう。一次産品市場をそんな短絡的な視点から考えるなんてあまりにばかげているし、各国からも容赦ない対抗策が出てくるだろう。

 レアアースの生産拡大に向けて補助金をつぎ込んでいる国はいくつもあり、今後5年間で中国以外の国々からのレアアース生産量は急増するだろう。熱烈な自由市場主義者であっても、そうした各国の対応に異論は唱えないはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米11月CPI、前年比2.7%上昇 セールで伸び鈍

ビジネス

ECB理事会後のラガルド総裁発言要旨

ビジネス

ECBが金利据え置き、4会合連続 インフレ見通し一

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1.3万件減の22万400
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 7
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 8
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 9
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 10
    欧米諸国とは全く様相が異なる、日本・韓国の男女別…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中