コラム

トランプ弾劾が絡んで風雲急を告げる米中間選挙

2018年09月06日(木)19時00分

特に、マティス国防長官が「大統領はシリアのアサドを暗殺しようとしたが、私は反対して止めさせた」とか「大統領の思考能力は小学校6年生、いや5年生レベルだ」などと発言したとか、ケリー首席補佐官は大統領のことを「バカ」といっていたなど、生々しいことが書かれているのです。ある側近は、ホワイトハウスのことを「クレージータウン」と称しているそうで、この「クレージータウン」というのは流行語になりそうです。

トランプ政権の暴露本といえば『炎と怒り』が有名ですが、こちらは主として政権をクビになったスティーブ・バノンの「放言」がネタ元で、著者は無名のライターだったわけです。ですが、今回の『恐怖』の場合は、著者は超大物でネタ元は膨大な人数による膨大な証言の蓄積ということで、インパクトは比べ物にならないと思われます。

大統領の「コアの支持者」については、このぐらいの「攻撃」ではビクともしないのかもしれませんが、中間層であるとか、共和党支持者の中でも穏健派の人々については、ここへ来て大統領への支持は下がってきていると見ていいでしょう。

では、共和党全体に動揺が見られるなかで、民主党が中道層や無党派層をまとめ切れるのかというと、そこにも不安要素があります。民主党陣営では、今回の中間選挙の候補者を選ぶ予備選を通じて「左シフト」とでも言うべき現象を起こしているからです。最新のケースとしては、9月4日に行われたマサチューセッツ(MA)州7区の民主党下院予備選です。

この「MA7区」ですが、現在はマイク・カプアーノというベテラン議員が10期連続で(区割り変更を含む)当選しています。そこに今回チャレンジャーとして登場した、アフリカ系女性のアヤナ・プレスレー候補が、59%対41%という大差で勝利しています。

プレスレー候補の政策は、バーニー・サンダース上院議員に大きく影響を受けた民主党左派で、公約には「メディケア・フォー・オール(欧州や日本タイプの国民皆保険の実現)」「トランプ大統領の即時罷免」「ICE(移民取締官制度)の廃止」といった内容を掲げています。

こうした民主党の「左シフト」には、2016年の選挙でサンダース候補を応援した30代以下の熱狂的な支持がある一方で、せっかく「トランプ離れ」を起こしている中道票を取り逃がす危険もあるわけです。ただ、こうした左派が躍進する格好で、民主党が大勝すれば、時代の歯車は大きく動くことになるのは間違いありません。中間選挙ではそこが大きな注目ポイントになります。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、CIAにベネズエラ秘密作戦承認 マドゥ

ワールド

中国、仏と高官レベルの戦略的協議強化の意向表明

ワールド

IMF専務理事がウクライナ再訪問計画、時期は未定=

ワールド

豪失業率、9月は4.5%で4年ぶり高水準 利下げ観
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story