コラム

とうとうメディアになった動画サイト

2010年11月11日(木)14時29分

 尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐるビデオ流出事件は、神戸海上保安部の職員が当事者だと名乗り出たことで内部流出の疑いが濃厚になった。

 今回ビデオが動画投稿サイトの「YouTube」を通じて一気に広まったことは、政府の情報統制に対する疑義を突きつけた。同時に国民にとってネットメディアが新聞やテレビ、雑誌といった既存メディアに匹敵する重要な情報源になったこと事実も指摘している。各種のネットメディアが実施した緊急のアンケート調査では、圧倒的多数の回答者がビデオ映像の公開を支持した。

 つい最近まで、例えばネット掲示板の投稿者は自分の書き込みを「便所の落書き」と卑下していた。今や国家機密がネットメディアに匿名で投稿され、それが一瞬の間に日本中、世界中のネットユーザーが入手できる時代になった。

 変化は徐々に起きていた。今月初めに民主党の小沢一郎元幹事長が動画サイト「ニコニコ動画」の番組に出演し、「新聞やテレビは正確な報道をしてくれない」と既存メディアを批判してうえで、政治資金規正法違反事件に関する国会招致には応じない意向を明かした。紙面や映像を編集して伝える既存メディアへの不信感が、政治家から公然と示された。

 国外の先進事例と言えば民間の内部告発サイト「ウィキリークス」だろう。イラク駐留米軍に関する機密文書を7月に約9万点、続いて10月に約40万点公開した。米国防総省は、メディア側に対して公開された機密情報に基づく報道を自制するよう異例の要請をした。ウィキリークスは今後、ロシアや中国の機密文書の公開を予定していると報道されている。

 報道機関という組織としての特質、その他、報道関係者の俗人的な事情も含めた様々な要因から、結果としてマスコミ報道が国家権力の「大本営発表」になってしまうことはある。それは決して戦時中や独裁体制に限った話ではない。だからネットメディアで国民の「知る権利」が拡大されることは絶対に賛成だ。

 一方で、真偽不明の撹乱情報が今後、世論と国政に多大な影響力を持つことへの不安は誰しも感じている。思い出されるのは民主党がまだ野党時代に起きた「偽メール事件」。メットメディアに匿名で投稿される情報が世論、国政を動かすなら、それを目的にして行動を起こす人物、組織は必ず現れる。

――編集部・知久敏之

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年で民生投資拡大 家計消費のGDP比大

ビジネス

キリンHD、バーボンブランド「フォアローゼズ」売却

ビジネス

カナダ、米国製ステランティス・GM車の関税免除枠削

ビジネス

トランプ氏、カナダとの貿易交渉打ち切り 関税巡る「
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼稚園をロシアが攻撃 「惨劇の様子」を捉えた映像が話題に
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story