コラム

イルカ漁告発映画『ザ・コーヴ』は衝撃的か

2010年02月19日(金)11時59分

 和歌山県太地町のイルカ漁を糾弾したドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』が、初夏に日本で公開されることが決定した。

 作品の詳細は町山智弘さんのコラムを読んでいただきたいが、映画としての出来栄えは確かなようだ。欧米での評価は高く、昨年のサンダンス映画祭観客賞やロサンゼルス映画批評家協会賞ドキュメンタリー映画賞などを受賞。3月7日発表の米アカデミー賞でもドキュメンタリー長編賞にノミネートされている。
 
 新聞などの映画評を集めたサイト「ロッテントマト」でも、肯定的なレビューが96%と圧倒的。「ゲリラジャーナリズム」「スリラー」の要素が受けたようで、例えばニューヨークタイムズの記者ラリー・ローターは「型破りなドキュメンタリーで、ジェームズ・ボンドやハリウッドのアクション映画に期待するようなドラマティックな盛り上がりとサスペンスがある」と書いている。

 数少ない辛口批評がウォールストリート・ジャーナルで、「罪を犯した人が贖罪を求める物語」と素っ気ない(「罪を犯した人」というのは、映画の主役であり『わんぱくフリッパー』のイルカを調教していたリチャード・オバリーのこと)。

 これには激しくうなずいてしまった。イルカが殺され、その血で染まった海を見るのは確かに辛いが、個人的には「一方通行の思い込みで突っ走っている」と感じなくもなかったので。それは私が日本人だから? 5年ほど前、タンザニアを舞台にした『ダーウィンの悪夢』というドキュメンタリー映画が話題になったが、あの作品も当事者の立場から見れば衝撃的というほどでもなかったのかもしれない。

 しかし、『ザ・コーヴ』では撮影妨害や抗議をする地元関係者がまさに「悪役面」で、彼らが登場しなければ映画のショック度も半減するような......。ちなみに日本公開に際しては太地町と話し合い、彼らの顔にモザイクをかけるといった配慮をするそうだ。

――編集部・大橋希

このブログの他の記事も読む

ミシェル・オバマの肥満撲滅大作戦

不遜なギリシャ首相はタダ者じゃない?

スポーツに政治を持ちこまない...わけにはいかない

中国政治「序列」の読み方

ユーロ危機を予測していたフリードマン

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story