コラム

ロマンポルノの巨匠が紡ぐ『(秘)色情めす市場』は圧倒的な人間賛歌

2020年10月15日(木)18時50分

ドヤ街に生きる季節労働の男たちと、自分の体を売る女たち。むき出しの暴力と欲望。生と性が重なりながら明滅する。でも絶望しない。田中登は絶対に生を否定しない。人間賛歌なのだ。登場する女や男たちは皆、自分の生にこれ以上ないほどに前向きだ。悶(もだ)え続け、その悶えの声が性の愉悦に重なる。トメには重度知的障害を持つ弟がいる。演じるのは夢村四郎。ラスト近く、ニワトリが飛べないことに絶望した弟は(トメと体を重ねてから)、1人で通天閣に向かい、これをよじ登る。

......この先は書かない。いや書けない。観てほしい。40年前に僕が体験した圧倒的な感覚を、(大きなスクリーンでないのは残念だけど)ぜひあなたにも共有してほしい。

magmovie201014_mori2.jpg『(秘)色情めす市場』(1974 年)
監督/田中登
出演/芹明香、花柳幻舟、夢村四郎、萩原朔美

<本誌2020年9月29日号掲載>

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プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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