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焦点:グリーンランド危機回避、NATO事務総長の「トランプ操縦」手腕

2026年01月23日(金)19時18分

写真は1月21日、スイスのダボスでNATOのルッテ事務総長と会談するトランプ米大統領。REUTERS/Jonathan Ernst

Anthony Deutsch Lili Bayer

[アム‍ステルダム/ブリュッセル 22日 ロイター] - 北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総‌長は、「トランプ米大統領の扱いに長けた人物(Trump whisperer)」との評価を確固たるものにした。デンマーク自治領グリーンランドを巡ってトランプ氏と欧州諸国の緊張が沸点に近づく中、直接会談で欧州8カ国への追加関税の撤回を取り付けるのに成功したのは同氏の外交手腕の成果とみられている。

世界‌経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)が開かれて​いるスイスでルッテ事務総長と会談したトランプ氏は、ルッテ氏と北極圏全体に関する「将来的な合意の枠組み」に合意したことは「米国、そして全てのNATO諸国にとって素晴らしいものになる」と述べた。

詳細はほとんど明らかになっていないが、合意はNATOを崩壊の瀬戸際から引き戻し、外交的な勝利だったと、外交官や政治アナリストは指摘する。

14年間オランダの首相を務めたルッテ氏は、トランプ第1期政権時代に同氏と良好な関係を築いた実績から、2024年のトランプ氏再選の1カ月前にNATOトップの職に就いた。その時点です‌でに、欧州の新聞で「Trump whisperer」として取り上げられていた。

ルッテ氏の戦略は繊細でも巧妙でもない。他の欧州首脳がトランプ氏に対して批判的な姿勢を強める中でも、トランプ氏に惜しみない賛辞を送ることを基盤としている。

フィンランドのストゥブ大統領はダボスでロイターの取材に「NATO事務総長の職務は常に重要だ。そしてそれが、冷静沈着で落ち着きがあり、米大統領と話をすることができるマルク・ルッテという人物によって体現されているなら、われわれは今この瞬間に彼がこの職に就いていることに感謝すべきだ」と語った。

トランプ氏は以前、米国はグリーンランドを所有する必要があると述べていた。トランプ氏の軌道修正がどの程度ルッテ氏の働きかけによるものかは不明だ。トランプ氏はルッテ氏との会談前には既に軍事力行使を選択肢から外していた。

しかし外交筋の多くは、トランプ氏の2期目最初の1年において、NATOをまとめ上げ、欧米の傷ついた関係を維持してきた功績はルッテ氏にあるとみている。欧州の外交官は「ルッテ氏は完璧ではないし、同盟国は彼や彼の運営​スタイルについて異なる見解を持っているかもしれない。しかし困難な時代にNATOをまとめる上で非常に優れた手腕を発⁠揮している」と評価。「トランプ氏は譲歩する用意で(会談に)臨み、ルッテ氏は完璧な相手だった」と振り返った。

各国が外交的なやり取りに奔走し、欧‍州諸国がグリーンランドの割譲を拒否するデンマークに強い支持を打ち出したことも一因になったが、それでもルッテ氏個人の介入が決定的だったとみられている。

NATOの高位の外交筋によると、今回の合意からルッテ氏がトランプ氏の「スピードダイヤル(すぐに電話がつながる相手)」であり続けるための行動を取っている理由が読みとれるという。

<トランプ氏は「ダディ」>

ルッテ氏は昨年6月にもトランプ氏と交渉し、NATO加盟国は軍事および関連支出の対国内総生産(GDP)比を5%に引き上げるというトランプ氏の要求に同意する合意を取りまとめることに成功している。この際にも愛想‍を振りまき、トランプ氏は国際紛争における「ダディ(父親)」だと持ち上げた。トランプ氏が喜んだのは明らかで、21日のダボスでの演説‍でも「ダディ」‌という言葉を持ち出した。

ルッテ氏は現在、NATO加盟国がグリーンランドと、より広範な北極圏の安全保障を強化する枠組み合意を‍提案している。これは中国とロシアが脅威をもたらしているというトランプ氏の懸念に対処するものだ。

マクロン仏大統領がダボスでの演説でトランプ氏をいじめっ子呼ばわりしたのと対照的に、ルッテ氏は一貫してトランプ氏を称賛してきた。今週トランプ氏がソーシャルメディアに投稿したテキストによると、ルッテ氏はシリアにおけるトランプ氏の対処を「信じられないほどだ」と称え、ガザとウクライナに関する取り組みも評価している。

<トランプ氏への理解>

ルッテ氏は政治的に分裂しがちなオランダで連立政権をまとめ上げる中で、合意形成能力に磨きをかけてき⁠た。記者からカメラの前で微妙な問題について質問されても答えないことが少なくない。話題を変え、外交上の問題は新聞の見出しに躍らせるべきではないと主張する。

独立系シンクタンクであるハーグ戦略研究センターのディレクター、ティム・スウェイス氏は、首相と⁠してこれほど長期間にわたり関係者をまとめ続けてきたルッテ氏の能力について、オ‍ランダでは「政治家としてやや珍しい」と述べた。「多くの指導者は引きこもり、議論を少数の側近に限定するが、ルッテ氏は違う。いつも古いノキアの携帯電話を手に取り、連立相手だけでなく野党のメンバーにも電話をかけていた」と言う。

ライデン大学のオランダ政治学准教授サイモン・オチェス氏によると、ルッテ氏のこうした姿勢は、​合意に達するためなら理念を脇に置いてしまいがちだとして批判にさらされる要因にもなっている。オチェス氏はルッテ氏について「『ビジョンが欲しいなら眼科医に行くべきだ』と語ったことで有名だ。妥協点にたどり着き、人々を結びつけ、前に進むために、人々に重要視されていると感じさせることができる人物だ」と分析。「彼は、政策面でトランプ氏が動くために何を必要としているのかだけでなく、心理的にトランプ氏が何を必要としているのかを、本当に理解しようとしている」と評した。

ロイター
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