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焦点:ロシア、「教育・医療費」削って国防・治安予算を増額

2022年11月28日(月)13時58分

  ロイターの予算分析によると、ロシアは来年度予算の3分の1近くを国防と国内治安関連に費やす予定だ。ウクライナにおける軍事作戦の維持に資金を回すため、学校や病院、道路に割り当てられる予算は削減される。写真は5月にモスクワで行われた戦勝記念日の軍事パレードで撮影(2022年 ロイター/Evgenia Novozhenina)

[22日 ロイター] - ロシアは来年度予算の3分の1近くを国防と国内治安関連に費やす予定だ。ウクライナにおける軍事作戦の維持に資金を回すため、学校や病院、道路に割り当てられる予算は削減される。

ロイターの予算分析によると、ロシア政府は国防・治安関連に合計9兆4000億ルーブル(約21兆5000億円)を支出することになる。来年は2024年大統領選挙におけるプーチン氏の再選につながる重要な年だが、他の優先課題は圧迫される形だ。

ロシア連邦捜査委員会、検察庁、刑務所、ウクライナに派遣されている国家警備隊の活動を含む治安関連予算だけでも、2022年に比べて50%増加する。

ロシア政府としては記録的な規模の国防・治安関連予算になるが、金額自体は、米国の来年度国防予算および国土安全保障のニーズの一部(すべてではない)を満たすための予算に比べれば、約18%にすぎない。

独立系のアナリストであるアレクサンドラ・ススリナ氏は、「国家予算が軍事作戦の資金を捻出する手段になっている」と語る。「年金や教育関連の予算も増額されているとはいえ、ロシアが本来やるべきことに比べれば見劣りがする。10年来の問題が未解決のままだというのに」

ロシア財務省にコメントを要請したが、回答は得られなかった。

<「愛国教育」は予算増>

予算編成の変化には、対ウクライナ軍事作戦のてこ入れというロシアの思惑が透けて見える。ウクライナでは、部分的に占領した4州の併合を宣言したにもかかわらず、9月以降は大幅な後退を強いられている。プーチン大統領はロシア連邦政府と国内80以上の連邦構成主体に対し、軍のニーズを支えるべく、これまで以上に効率的に協力するよう指示した。

表面的には、来年度の国防予算は4兆9800億ルーブルで、前年比わずか1%増となる。だがそれは単に、2月のウクライナ侵攻以降に、今年度の国防予算が当初の3兆5000億ルーブルから3分の1も増額されているからだ。

対照的に、国内治安関連予算は前年比50.1%増の4兆4200億ルーブルとなる見込みだ。

プーチン大統領は、対ロシア制裁は西側諸国にブーメランのように打撃を与えていると主張してきた。西側諸国ではエネルギーと食料のコストが急上昇し、ここ数十年で最悪のインフレへの対応に苦慮している。とはいえ、ロシアの経済も無傷ではない。

西側諸国による制裁と、30万人の予備役を招集する政府の決定を反映して、ロシアの第3・四半期の国内総生産(GDP)は前年同期比4%減少した。また、何十万人もの国民が徴兵を逃れるために国外に流出している。

2023年の予算では、道路や農業、研究開発など「国家経済」関連の支出は23%減の3兆5000億ルーブルになる見通し。医療関連は9%減の1兆5000億ルーブル、教育関連は2%減の1兆4000億ルーブルだ。

ロシア大統領アカデミー(Ranepa)とガイダル研究所の共同調査によれば、インフラと産業への支出はそれぞれ23.5%、18.5%減少する。両研究所は、政府が西側諸国以外の新たな市場の開拓を試みている中で、この予算減は「重大な困難を引き起こす可能性がある」と指摘している。

研究開発への投資も削減されると見通しで、制裁で最新のテクノロジーが国内に入ってこない中、「多くの基幹産業では、国産のテクノロジーを開発するための資金が得られなくなる」とRenepaは見ている。

2018年に4期目を目指して大統領選挙に出馬したプーチン大統領は、2024年までにロシアを世界第5位の経済大国にするという目標を掲げ、道路から医療、教育に至るまで、合計13の「国家プロジェクト」に4000億ドル(約55兆6000億円)以上を投じると公約した。

こうした目標の達成はコロナ禍のもとで2030年に先送りされたが、来年度は関連の予算が10%削減されるため、アナリストらは、またもや目標を達成できなくなるリスクが高まっていると指摘する。

年金や福祉といった社会保障関連費は、プーチン大統領の国内経済政策の要であり、前回の大統領選挙でも有権者へのアピールに利用された。来年度は合計7兆3000億ルーブル、前年比では8%増だが、それでも軍事・治安関連予算の合計には及ばない。

Ranepaとガイダル研究所によれば、教育に関する国家プログラムへの拠出は削減されるが、進行中の事態や歴史的な出来事へのロシアの見解を反映するため、学校での「愛国教育」に関する予算は今年度に比べ513%増えるという。

ロシア国立研究大学経済高等学院は、医療費削減について「コロナ禍と医療サービスへのアクセス悪化という2つの要因による死亡率上昇に鑑みれば、正当化できない」と指摘している。

<忍び寄る債務の影>

経済制裁が歳入を圧迫する中で、ロシアは来年度の財政赤字がGDP比2%に相当する3兆ルーブルへと倍増すると予測しているが、アナリストらは、4兆5000億ルーブルに達する可能性もあると述べている。

財政赤字を補填するため、財務省はすでに政府系ファンド「ナショナル・ウェルス・ファンド」に手をつけており、さらに前週、ルーブル建て国債(OFZ)を発行して140億ドルを借り入れた。

これは1日の国債発行額としては過去最大であり、英国防省はツィッターで、ロシアが国防支出を賄うために借り入れを行っている兆候だと強調した。

ロシアの公的債務は来年GDP比17%になると見られており、国際標準に比べれば低い。だがアナリストらによれば、債務償還コストが支出全体に占める比率は、現在の5.1%から2025年には6.8%に膨らみ、医療と教育に向けた支出を上回る見込みだ。

ロシア金融大学は「2023年から2025年にかけて、公的債務は国の経済成長率を上回るペースで増加するだろう。これは借入資金の使用効率の低下を示しており」、経済成長に打撃を与えるだろうとしている。

(Darya Korsunskaya記者、翻訳:エァクレーレン)

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