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アングル:習政権10年で女性の地位「後退」、党大会に期待感なし

2022年10月22日(土)07時30分

 10月18日、習近平党総書記(国家主席)の3期目続投が確実視されている開催中の中国共産党第20回党大会で、ジェンダー平等の推進に期待する中国人女性はほとんどいない。写真は党大会の開会式前に出席者にお茶を準備する係員。16日、北京にある人民大会堂で撮影(2022年 ロイター/Thomas Peter)

[香港 18日 ロイター] - 習近平党総書記(国家主席)の3期目続投が確実視されている開催中の中国共産党第20回党大会で、ジェンダー平等の推進に期待する中国人女性はほとんどいない。

学者や活動家によれば、習氏が党総書記に就いてからの10年で、政治の場や政府の中枢の役職に就く女性の数は減少し、労働者層のジェンダーギャップは拡大の一途をたどった。近年、フェミニストの声は抑圧され、政府は母親や世話をする人といった女性の「伝統的役割」を強調するようになった、とも彼らは付け加えた。  中華人民共和国建国の父である毛沢東氏は「女性が天の半分を支えている」と述べたことでも知られる。憲法の中でもジェンダー平等がうたわれている。

しかし、中国政治の勢力争いの中で女性の支持を得ることが重要となり、結果として多くの女性の参画が見られた10ー15年前と比べ、習政権下では権力の集中が大きく進んだ、と話すのは、米ブルッキングス研究所の中国政治専門家、チェン・リー氏だ。

「女性は今では、補佐的な役職や、象徴的な地位に就くことが多くなっている」と言う。

5年に1度開催される党大会では、党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員のメンバーが選出されるが、今回選ばれる7人はこれまでと同様、全て男性となる見通しだ。

中央政治局員25人の候補として、たった1人、女性で有力視されているのは省のトップを務めるシン貽琴氏(62)。現在唯一の女性局員で、「ゼロコロナ」政策を推し進めた孫春蘭氏(72)は引退するとみられている。

党内のヒエラルキーで次に上位にくる中央委員会では現在、委員と候補委員を合わせた371人のうち女性は30人で、全体の8%を占めている。この割合は2007年の10%から低下している。また、中国の31ある省政府でトップを務める女性はわずか2人だ。

中国共産党は女性党員の増加に努めており、その割合は2012年の24%から21年の29%と上昇しているが、幹部女性政治家の不足はこうした流れと相反するものだ。

ただ、中国国内でも女性が価値ある前進を見せる分野も存在する。最も目立つのは実業界だ。

株価指数算出会社MSCIの報告によれば、中国企業における女性の取締役の割合は昨年が13.8%と、2016年の8.5%から増加。政府によれば、およそ55%の中国のテクノロジー関連スタートアップ企業が女性の手で設立されたという。

しかしながら、政府内の女性の不足は、女性にとって本当の意味で妨げになっていると専門家は指摘する。

「これによって、女性の権利や出生率、男女の賃金差や、家庭内暴力まで、実際に社会で目にする問題に影響が出ている」と、ドイツのメルカトル中国研究所(MERICS)のアナリスト、バレリー・タン氏は話す。

ロイターは、女性の権利を担当する中国政府機関である中華全国婦女連合会にコメントを求めたが、返答は得られなかった。

同連合会のウェブサイト上で9月27日に発表された声明によれば、中国は過去10年間で「女性運動に大きな前進」を見せており、国家の女性は平等な権利を謳歌しているという。

<良き妻、良き母>

多くの国が職場や教育、健康、政治におけるジェンダーギャップの改善に成果を上げる中、中国は男女の平等を示す最新の世界経済フォーラムのランキングで146カ国のうち102位となった。習氏が国家主席に着任した2012年の69位から下落している。

「環境は確実に悪化している。以前が良かったわけではなくて、常に悪い状態ではあるが、今はより簡単に搾取されやすくなってしまった」とグレース・ワンさん(28)は語る。

ワンさんは、以前の職場で、女性であることを理由に昇進で先を越され、現在の職場でも同じような問題に直面しているという。 

「キャリアに対する私の今の姿勢は、何とか生きていくために十分なお金を稼ごう、というだけだ」と話す。

中国政府は昨年12月、職場での性差別やセクシュアルハラスメントから女性を保護するため、関連の法律を見直す計画を発表。何万人もの人がこれに対して改訂案を提出し、一歩前進を見せた。

とはいえ、世界最低水準の出生率や、子どもを持つことに消極的な人の増加、急速な高齢化社会といった人口危機への対処を迫られている同国政府が、女性の伝統的役割の価値を重んじる発言を強めていることに、専門家や活動家は懸念を示している。

例えば、2021年7月の演説で習氏は、ジェンダー平等の重要性に触れつつ、女性は「良妻賢母」であるべきとも発言。そのためには、「自分たちの未来や運命を、祖国の未来や運命と密接に繋げて考える現代の使命」を担わなければならないと述べた。

また、専門家は女性の権利が後退している具体的事案も挙げている。

中国国家衛生健康委員会は8月、医学的に必要な場合を除き人工妊娠中絶を抑制する方針を表明。ソーシャルメディア上で非難する声が殺到した。同様に、離婚に申請後30日間の「クーリングオフ制度」を課す新たな法律が制定されたことも、家庭内暴力の犠牲者らを中心に怒りの声が上がっている。

2018年に「#MeToo」運動の拡大とともに中国国内でも共感が広まったフェミニスト運動は、イベントの強制中止やオンラインで行われる議論の検閲、活動家らの逮捕など、政府により押しつぶされた。

既に閉鎖された中国オンラインメディア「フェミニスト・ボイス」の創設者で、現在はニューヨークを拠点とする活動家、ルー・ピンさんはこう話す。

「現在のフェミニスト運動はとても弱く、活動を発展させる自由もない。多くの社会運動が沈黙させられ、女性には自由な意思もない」

(Farah Master記者、Xiaoyu Yin記者)

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