ニュース速報

ワールド

アングル:欧州でインフル復活の兆し、「ツインデミック」懸念

2022年01月22日(土)11時10分

1月17日、昨シーズンはほぼ消滅していたインフルエンザが、この冬は予想以上のスピードで欧州に戻ってきた。写真は2020年10月、仏グゾークールでインフルエンザの予防接種を受ける人(2022年 ロイター/Pascal Rossignol)

[ブリュッセル 17日 ロイター] - 昨シーズンはほぼ消滅していたインフルエンザが、この冬は予想以上のスピードで欧州に戻ってきた。ワクチンの有効性にも疑問が生じており、新型コロナウイルスと同時流行する「ツインデミック」が長引くとの懸念が持ち上がっている。

新型コロナウイルス感染防止のためのロックダウン(都市封鎖)やマスク着用、ソーシャルディスタンス(社会的距離)が常態化していた昨冬は、一時的にインフルエンザウイルスが根絶状態となった。欧州連合(EU)のデータによると、インフルエンザによる世界の死者数は、通常なら年間約65万人に上る。

しかし、現在は新型コロナワクチンの接種が進んだことから、各国が感染防止策を緩めている。

欧州疾病予防管理センター(ECDC)の今月の発表では、インフルエンザウイルスは欧州で昨年12月半ばから予想以上の速度で広がっている。欧州では集中治療室(ICU)に入るインフルエンザ患者数は12月に徐々に増え、最終週に43人に達したことが、ECDCと世界保健機関(WHO)のデータで分かった。

これは新型コロナのパンデミック(世界的流行)前に比べれば大幅に少ない水準だ。例えば2018年の同時期には、ICUで治療を受けるインフルエンザ患者数が一時、週に400人を超えていた。

今年は昨冬に比べ急増している。2020年は12月を通してICUに入るインフルエンザ患者数がわずか1人だった。

ECDCのインフルエンザ専門家、パシ・ペンティネン氏は、今回のインフルエンザシーズンは異常に長期化し、夏までずれ込む可能性があると話す。春に新型コロナ感染抑止のための制限措置が完全解除に向かうと仮定すれば、長く移動を制限されてきた欧州の人々が春以降に動き始める結果、例年であれば5月に終わる欧州のインフルエンザ拡大が長引くかもしれない、というわけだ。

ECDCはリポートで、「ツインデミック」になれば医療体制への負荷がさらに過大になりかねないと指摘した。

フランス保健省が先週公表したデータによると、同国ではパリ地域を含む3つの地域でインフルエンザが流行している。その他の地域は流行前の段階にある。

<主流株の特定難しく>

問題をさらに複雑化している要因がある。今冬主流のインフルエンザ株は今のところA/H3型とみられ、通常は高齢者に最も重い症状をもたらす種類だ。

ペンティネン氏は今年のインフルエンザワクチンについて、実臨床分析にはもっと多くの患者のデータが必要なため、有効性を最終判断するのは時期尚早だと言う。しかし研究所での臨床試験では、今年入手可能なワクチンはH3には「最適ではない」ことが示されている。

これはワクチンの成分が決まった昨年、インフルエンザウイルスがほとんど広がっていなかったことが大きな原因だ。このためメーカーは次のシーズンにどの株が主流になるかを予想することが例年より難しかった。

欧州の大手ワクチンメーカーで構成するワクチン・ヨーロッパはそうした実態を認めた上で、今シーズンのワクチンの有効性を判断するには現時点ではデータが不足していると説明した。

インフルエンザワクチンは、変化を続けるウイルスに対して最大限の有効性を発揮するように毎年成分を適応させている。成分が決まるのはシーズンの半年前で、判断基準となるのは地球の反対側の半球で流行しているウイルスだ。こうした仕組みにより、製薬会社は開発と接種の時間を確保できる。

欧州全体のインフルエンザワクチン接種率のデータはまだ入手できないが、フランスでは当局が希望するほど接種が広がっていない。

フランス当局は接種率を高めるため、接種期間を2月末まで1カ月延長した。先週の発表によると、これまでに接種を終えたのは1200万人と、対象となる層の約45%だ。

ワクチン・ヨーロッパは、新型コロナの大流行で製造設備に負荷がかかってはいるが、業界全体で大量のインフルエンザワクチンを供給できたとしている。

(Francesco Guarascio記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=小反発、ナスダック最高値 決算シーズ

ワールド

トランプ氏、ウクライナ兵器提供表明 50日以内の和

ワールド

ウへのパトリオットミサイル移転、数日・週間以内に決

ワールド

トランプ氏、ウクライナにパトリオット供与表明 対ロ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中