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焦点:内戦に「勝利」のアサド政権、米制裁と経済苦境で窮地に

2020年06月30日(火)15時28分

6月24日、わずか1年前、シリアのアサド大統領は外交的な孤立状態を和らげ、一発の銃弾も撃たずに国内でより多くの支配地域を回復した形になった。写真は3月、ダマスカスに掲げられたアサド大統領のポスターの前を歩く女性(2020年 ロイター/Yamam Al Shaar)

[ベイルート/アンマン 24日 ロイター] - わずか1年前、シリアのアサド大統領は外交的な孤立状態を和らげ、一発の銃弾も撃たずに国内でより多くの支配地域を回復した形になった。このことで、軍事的にもまさに最高の勝利が手に入るように見えた。

当時、米国と同盟していたはずのクルド人勢力が北東部に駆逐されただけでなく、首都ダマスカスには、かつては敵対していたアラブ首長国連邦(UAE)から投資機会を求めてビジネスマンが訪れ、地域間の貿易は上向き始めた。

また、アサド氏の後ろ盾であるロシアとイランの介入により、シリアの主要都市はほとんどが政権側の支配下になった。2011年からアサド政権打倒を目指して戦ってきた軍組織の勢力範囲は、トルコ国境近くの狭い地域に限定された状態だ。

だが、今のダマスカスを覆っているのは陰鬱な雰囲気だ。

アサド氏が期待した国内の復興は、米政府が新たに発動した「シーザー・シリア市民保護法」に基づく制裁によって、全く進展していない。この制裁はシリア政府のほぼ全ての友好国に支援をためらわせ、アサド氏が約束した復興作業を実現するために必要な投資の見送りにつながる公算が大きい。

10年にわたる内戦でひどい痛手を受けたシリア経済は、米国の制裁のほか、金融危機に陥った隣国レバノンから外貨が入手できないという事態もマイナスに働いている。

米国の制裁は、それだけではアサド政権を倒すことは難しい。とは言え、同政権がせっかく獲得した内戦での優位を生かした国内での足場固めや、戦闘で生じた支持者の損害が多い地域における利権ネットワークの再構築などを一層難しくする、というのが専門家の見立てだ。

シリアは国内が三つどもえの争いとなり、厳しい制裁を科され、「世界中の嫌われ者」が統治しているという意味で、1990年にクウェートに侵攻し2003年に米国主導の多国籍軍に打倒されるまでのイラクのサダム・フセイン政権に対比される。

米トリニティー大学のシリア専門家、デービッド・レッシュ教授は「制裁の累積的効果で、アサド氏がシリアの大半に再び影響力を広げたり、支配体制を維持したりしていく力が損なわれる可能性がある。同氏が短期的に地位を失うとは思わないが、体制維持の能力は制約を受けるだろう」と述べた。

<ない袖は振れず>

シリアでは内戦で何十万人もの人が亡くなり、1100万人余りが家を追われた結果、人口は以前の半分近くに減少した。かつては生産性が高かった経済にも、何千億ドルもの被害が生じた。

アサド氏がじりじりと失地を回復していくとともに政権支配地域の市民は事態が改善するとの希望を抱いていた。しかし、今年に入ってシリアポンドが急落し、既に青息吐息だった国民の購買力は徹底的に打ちのめされてしまった。過去数年間、1ドル=500ポンド前後で安定していたのに、今月は同3000ポンドまで売り込まれた。

アサド氏は、内戦で救いの手を差し伸べてくれたロシアやイランといった同盟相手を引き続き頼りにしている。シリアは復興に向け、UAE、中国、インドなどからの投資に期待していたものの、これらの国はシリアと取引すれば米国の制裁に逆らうことになる。かといってロシアとイランはいずれも自分たちが米国の制裁を受けていることもあり、代わりにシリアに投資できる余裕もない。

シリアのムアレム外務・移民相は23日の会見で、米国の新たな制裁は「飢え」と「不安定」を生み出す狙いだと非難した。

<チキンレース>

米政府は制裁の目的について、アサド政権にこれまでの戦争犯罪の責任を取らせるとともに、今後戦争に訴えるのを阻止することにあると説明。人道的支援は制裁対象にならないとしている。

米国務省のシリア特使、ジョエル・レイバーン氏は、アサド政権を政治的なプロセスに復帰させるため、米国がこの夏に「未曽有の政治的・経済的圧力」をかけると表明している。

そして、米政府にとっては制裁以外にも有効な手段はある。トランプ大統領は昨年、シリアからの米軍撤退を命令したが、東部にはまだ、部隊が残ってアサド政権が油田や農地を支配するのを防ぎながら、クルド人主体の自治地域に安全保障の傘を提供している。トルコ軍もシリア北西部に展開し、アサド政権が最後に残った反政府軍の強力な拠点を取り戻すのを妨害している。

アサド政権が支配を回復した地域も安定せず、南部では反政府勢力が敗北してから2年経過した今も、不穏な情勢が続く。最近では、本来親アサド氏の地域であるスウェイダ県でも、経済的苦境を背景に反政府デモが起きた。

政府の懐具合の厳しさを物語るのは、アサド氏のいとこで以前は体制側の要人の1人だったラミ・マクルーフ氏が、資産を差し押さえられたことだ。

ザ・センチュリー・ファウンデーションのアロン・ルンド研究員は「アサド氏の戦略と彼が支持者に約束してきたのは、内戦に勝利する必要があり、今我慢すれば、欧米は疲れ果てて制裁は解除されるか緩和されるという理屈だった。(しかし)貧困が一段と悪化し、飢えが飢饉になっていけば、利権ネットワークは弱体化し始める。われわれはアサド氏にとって非常に深刻になり得るさまざまな脅威を目にすることになる」と指摘した。

(Tom Perry記者 Suleiman Al-Khalidi記者)

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