ニュース速報

ワールド

焦点:イタリア橋崩落、的外れなEU批判が覆い隠す財政実態

2018年08月18日(土)08時20分

 8月15日、イタリア北部ジェノバで高速道路の高架橋が崩落し多数の死者が出た事故を巡り、老朽化したインフラ整備のためにEUがイタリアにもっと歳出拡大余地を認めるべきという警告だとの見解を同国政府は示した。14日撮影。写真は映像から(2018年 ロイター/Italian Firefighters Press Office/ via REUTERS)

[ミラノ 15日 ロイター] - イタリア北部ジェノバで多数の死者を出した高架橋の崩落事故を巡り、老朽化したインフラ整備のためもっと歳出拡大余地を認めるべきという警告だと、同国政府は欧州連合(EU)を批判した。

ただそうした姿勢は、イタリア国債の利回りを一段と押し上げる結果になりかねない。

サルビーニ副首相兼内相は、高速道路の高架橋で14日発生した崩落事故発生から数時間しか経過していない段階で、国内インフラの安全確保に必要な財政資金のすべてを来年度予算に盛り込むことをEUは許容しなければならない、と強調した。

今回の事故では、高さ約50メートルの高架橋が約80メートルにわたって崩落し、橋の上を走行していた自動車など約35台が巻き込まれ、少なくとも39人が犠牲となった。

ポピュリズム(大衆迎合主義)的な2つの政党が連立を組む現在のイタリア政権は6月の発足以来、既に減税や年金支給ルールの緩和、貧困層へのベーシックインカム提供などのために数百億ドル規模の歳出を計画している。さらに前政権が財政目標達成のためにEUと合意した付加価値税(VAT)の税率引き上げの発動も避けようとしている。

そこに今回のインフラ投資必要論が加わった格好だ。

このためイタリアにお金を貸している人々は、財政赤字に対する不安が募る一方となっている。

実際、サルビーニ副首相が高架橋崩落事故を機に、EUの財政赤字制限に疑問を投じると、15日のイタリア国債利回りは急速に上昇した。その後やや下げたものの、利回り水準はなおドイツ国債をかなり上回っている状態だ。

<低い優先順位>

トル・ベルガータ大学のグスタボ・ピガ教授(経済学)は、EUの財政ルールの有無にかかわらず、そもそもイタリア政府はインフラ整備を最優先の政策として掲げてこなかったと批判した。

ピガ氏は「イタリアはより多くの良質な公共投資を著しく必要としているが、それは近年政治家にとって優先事項ではなかった」と述べ、前政権に至ってはEUから投資に関する裁量を拡大するためにインフラ整備予算の一部を他の分野に回していたようだと指摘した。

経済協力開発機構(OECD)のデータに基づくと、イタリアが交通インフラの投資および維持に支出した金額は2008─15年で58%も減少した。

ところがイタリア銀行(中央銀行)が昨年行った分析では、もっと多く投資しようと思えば可能だった。現実を見ると、07─15年に実質ベースの公共投資が35%落ち込んだ一方で、公務員の給与や年金支給といった経常的な歳出は7%も増えたのだ。

EU欧州委員会は15日、イタリア連立政権に対し、しばらく前からインフラ投資を優先するよう促してきた事実を思い起こしてほしいとのメッセージを送った。

欧州委によると、4月には事故が起きたジェノバ地域を含むイタリアの高速道路向けに85億ユーロの投資をすることを承認している。またイタリア政府は、14年─20年の間に道路や鉄道といった交通網インフラのためにEUから約25億ユーロを受け取れることにもなっているという。

イタリアのトリア経済・財務相でさえ、インフラ投資はEUの財政ルールを緩和せよという連立政権の要求とは別問題かもしれないとの見方を示唆した。

トリア経済・財務相は、自身の優先課題は単に公共投資を拡大することではないと発言。政府はお金をうまく使う力や、民間への適切な介入能力が不足しているという問題の克服を目指していると説明した。

同国財務省の関係者は、トリア経済・財務相は既にEU側と向こう10年で総額1500億ユーロに上る大規模な公共投資計画を協議中であり、インフラ支出のために財政赤字を増やす必要はないと述べた。

今回の高架橋崩落は、連立政権にとってはEUを責める別の理由にもならなさそうだ。高架橋は1967年の完成からまもなく問題が生じていた上、維持補修を担当していたのは政府ではなく民間企業だったからだ。

(Valentina Za記者、Stefano Bernabei記者)

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、応援演説で円安メリットに言及 米関税のバ

ワールド

米政府機関の一部が閉鎖、短期間の公算 予算案の下院

ビジネス

中国1月製造業PMIが50割れ、非製造業は22年1

ワールド

トランプ氏、労働統計局長にベテランエコノミスト指名
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 2
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 7
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 8
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中