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焦点:米国の対中通商政策、ナバロ氏ら主導で遠のく交渉機運

2018年04月10日(火)09時49分

 4月6日、今年2月下旬、中国の習近平国家主席の経済ブレーン筆頭の劉鶴氏がワシントンを訪問した際、トランプ米大統領(写真)が凍結していた両国の通商協議再開のお膳立てを劉氏がすると期待されていた。ワシントンで3月撮影(2018年 ロイター/Jonathan Ernst)

[ワシントン 6日 ロイター] - 今年2月下旬、中国の習近平国家主席の経済ブレーン筆頭の劉鶴氏がワシントンを訪問した際、トランプ米大統領が凍結していた両国の通商協議再開のお膳立てを劉氏がすると期待されていた。

ところが劉氏が到着し、翌日にはムニューシン財務長官や当時のコーン国家経済会議(NEC)委員長と会談が予定されていたタイミングで、トランプ政権は主に中国を標的にした鉄鋼・アルミニウムの輸入制限措置を発表。こうした動きはまさに、米国が長年不公正とみなしてきた中国の貿易慣行についてより対決的に振る舞っているトランプ政権の姿を象徴している。

その後米政府が対中制裁の追加関税品目500億ドル相当を公表すると中国側がただちに報復措置を打ち出し、それに応じてトランプ氏が追加関税対象を1000億ドルまで拡大する意向を示すなど、対立はエスカレートした。

米国側で強硬路線を主導しているのは、ナバロ通商製造政策局長とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表だ。

ナバロ氏は、コーン氏がNEC委員長を辞任した後に通商政策の表舞台に登場した。関係筋によると、コーン氏は中国の不公正な貿易慣行をやめさせるべきだという考えはナバロ氏と共有していたものの、欧州や日本の協力を得て中国に圧力を加えるべきだと提唱していた。しかしコーン氏がトランプ氏をその線で説得できずに政権を去ると、対中貿易問題ではナバロ氏の意見が圧倒的な影響力を占めるようになった。

ホワイトハウスに近いある人物は、ナバロ氏やライトハイザー氏の声をトランプ氏が吸い上げている限り、トランプ氏がより理性的な場所へ戻る望みは薄いと打ち明けた。

トランプ氏自身もかねてから中国の貿易慣行を批判し、2016年の大統領選でも何度も話題にしてきただけに、コーン氏の辞任後は選挙の公約を掲げ続けられる余地が高まったと感じている、と複数のホワイトハウス高官は話している。

<信用の裏付け要求>

トランプ政権は貿易戦争回避に向けて中国と交渉することに前向きな姿勢を見せているとはいえ、あいまいな約束や検証不能な成果しかもたらさない話し合いをするつもりは毛頭ない様子だ。

政権のある高官は5日ロイターに「われわれは(中国を)単に信じることはできない。検証が必要で、交渉に入る場合は必ず中国が約束をしている分野でなければならず、そうした約束は彼らが履行するとわれわれが知ることができるものであるべきだ」と語った。

一方中国商務省の報道官は6日、米政府が打ち出した制裁措置を「極端な間違い」だと批判し、強力な対抗策を講じると示唆した上で、現在の環境では両国の交渉が行われる公算は乏しいと述べた。

<止まらぬ関係悪化の流れ>

ナバロ氏とともにライトハイザー氏も、中国との対決色を強めることを推進している。

こうしたライトハイザー氏の姿勢は筋金入りで、2010年の議会証言では、中国の貿易慣行を「強制的に変えさせる」には世界貿易機関(WTO)の一部ルールを無視する必要があるかもしれないとまで主張した。

同氏はカナダ、メキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉にも同じような強い態度で臨み、両国の反発を招いて協議がなかなか進んでいない。

まして米国の隣国で長年NAFTAで一緒にやってきたカナダやメキシコとは異質で、世界第2位の経済大国でもある中国にそのような強硬姿勢は通用しないのではないかとの懸念もある。

外交問題評議会(CFR)アジア研究部長のエリザベス・エコノミー氏は「米中関係は悪化の一途をたどっており、計算違いや偶発的な事件が発生するリスクは高まるばかりだ」と記した。

(Steve Holland、David Lawder、Jeff Mason記者)

ロイター
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