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アングル:米ではインフレ、印では工場閉鎖 エネルギーショックで世界景気後退も

2026年04月08日(水)11時17分

4月6日、米カリフォルニア州ユニオンシティにあるエメラルド・パッケージングの工場で働く従業員。.REUTERS/Carlos Barria

Howard Schneider Timothy Aeppel Sarah McFarlane Sumit Khanna

[サン‌フランシスコ/アーメダバード(インド) 7日 ロイター] - 6週目に入った米国‌・イスラエルとイランの戦闘は、エネルギーショックを通じて世界各地の金融市場と経済​活動に影を落としており、世界経済を景気後退に陥れるリスクさえ浮上している。

米カリフォルニア州で食品用ポリ袋メーカー「エメラルド・パッケージング」を営⁠むケビン・ケリー氏は「見たことのない価格上昇」​に見舞われ、顧客との契約を破棄せざるを得ないと苦悩している。

遠く離れたインドでは、世界中にアルミニウム製品を輸出している数十の工場が天然ガス不足により閉鎖され、英国では、肥料価格の高騰に見舞われた農家が備蓄を切り崩しながらしのいでいる。

ケリー氏によると、プラスチック樹脂の価格はわずか数週間で約2倍に跳ね上がった。合意済みの価格で注文に応じることは会社にとって「経済的な自殺行為」を意味し、「不可抗力宣⁠言をするしかない」という。自社の管理が及ばない要因により契約を履行できないと顧客に伝える宣言だ。

「コストの上昇幅があまりに大きいため、価格転嫁によって顧客を失ったとしても仕方ない」とケリー氏は肩を落とした。

アジア⁠や欧州の国々は、​今回のエネルギーショックによって米国よりも大きな影響を被っている。しかしアナリストらによると、米国でもインフレ圧力による消費抑制は避けられない見通しだ。

3月の企業仕入れ価格の上昇率は過去13年余りで最大を記録した。ゴールドマン・サックスは、米国が景気後退に陥る確率の推計を30%に引き上げた。

北海ブレント油は7日時点で3週間以上も1バレル=100ドル超か、その前後で推移しており、戦闘が始まった2月28日直前の約70ドルから50%上昇している。

シティグループのチーフ・グローバル・エコノミスト、ネイサン・シーツ氏は、原油価格が110ドルや120ドルを超えれば、世界経済のリスクはさらに深刻になると警告。「ショックが拡大するにつれ、景⁠気後退のリスクは大幅に高まる。おそらく一定の閾値(しきいち)を超えると特定の経済活動が正当化‌できなくなり、より急激で非線形的な景気下降に陥りそうだ」と語った。

クウェートやカタールの国営石油・ガス会社によると、湾岸地域の製⁠油所や港⁠湾、貯蔵施設は攻撃で深刻な被害を受けているため、たとえ戦闘が終わったとしてもエネルギー供給が以前の水準に戻るには数カ月を要する可能性があり、価格が高止まりしそうだ。

国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は6日、ロイターに対し、戦闘が迅速に解決したとしても、世界経済の成長予測を下方修正し、インフレ見通しを上方修正する方針だと述べた。

<国ごとに異なる痛み>

どのようなシナリオになるにせよ、打撃は世界中に均等に広がるわけではない。

エネルギー輸入への依存度‌が高い英国について、経済協力開発機構(OECD)は今年の経済成長率予測を前回の1.2%から0.7%に引き下げた。これは主要国の中で最​大の下方修正‌だ。

イングランド東中部で切り花を栽培するマシ⁠ュー・ネイラーさんは、肥料価格の上昇と供給制限に見舞われ、​手元にある肥料在庫だけで畑を管理している。他の農家は「作物を育てるよりも手持ちの肥料を転売する方が儲かるのではないか」と思案している、という話も耳にしたという。

アルミニウム工場が多数閉鎖されたインドは、アルミの主要輸出国だ。アルミは太陽光パネルのフレーム、輸送機器、消費財などに使われ、インドの問題は長期的に世界的な価格上昇につながりかねない。

<中国と米国は比較的有利>

対照的に、中国と米国は比較的良好な状況を維持できるかもしれない。中国はペルシャ湾岸産石油への‌依存度が低く、電化も進んでいる。一方、米国は今やエネルギーの純輸出国となっているため、供給制限に直面する可能性が比較的低い。

エネルギーコストの上昇は米国の消費者に打撃を与える一方で、国内のエネルギー企業を後押しし、エ​ネルギー部門労働者の賃金上昇や雇用創出につながる可能性もある。

これまでの⁠ところ、米国の個人消費は持ちこたえている。バンク・オブ・アメリカの最近のクレジットカード・デビットカード利用データによると、3月21日までの1週間のカード利用額は前年同期比で4.4%増加した。ただし、ガソリン代の増加分を除くと増加率は3.6%で、特に低所得世帯では支出に占める燃料費の割合がさらに​増えている。

またガソリン価格は約30%高騰、富裕層の支出に影響する株価は下落しているため、今後数週間で家計への打撃はさらに広がりそうだ。

ポリ袋工場経営者のケリー氏は、プラスチック業界の価格上昇は夏を通して続くと予想。膨大なプラスチックが中東に滞留しているため「明日戦争が終わったとしても、この見通しは変わらない」とし、「我々は自ら巨大な問題を作り出してしまった。今後数カ月にわたってそれを目の当たりにするだろう」と嘆いた。

ロイター
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