ニュース速報

ビジネス

アングル:円金利高でも進まぬ円高、日銀「ハト派利上げ」見据え

2023年09月12日(火)16時44分

 9月12日、 日銀のマイナス金利解除が予想より前倒しになるとの思惑から進んだ円高が、早くも反転し始めた。写真は円紙幣と日本の旗のイメージ。2022年6月撮影(2023年 ロイター/Florence Lo)

Shinji Kitamura

[東京 12日 ロイター] - 日銀のマイナス金利解除が予想より前倒しになるとの思惑から進んだ円高が、早くも反転し始めた。日本の10年債利回りは9年8カ月ぶり高水準へ到達したものの、ドルは前日の145円台から147円目前まで切り返した。日銀が利上げしても大きく広がった日米金利差はさほど揺らがないこと、緩和的なスタンスを強調する「ハト派的な利上げ」となる公算が高いことなどが、円高観測をそいでいる。

<半日で2円の円高、人民元高も影響>

週明け11日の外為市場は荒れ模様で始まった。ドルは前週末ニューヨーク市場終盤の147円後半から、気配値を1円近く切り下げる「ギャップダウン」と呼ばれる動きを見せ、1円近く円高に振れた146円後半で取引がスタート。日本の10年債利回りが9年8カ月ぶりに0.7%台へ乗せる中、夕方にはさらに1円円高の145円後半まで下げ幅を拡大した。

きっかけは、読売新聞が9日に掲載した植田和男日銀総裁のインタビュー記事。マイナス金利解除を前倒しする可能性をにじませたとの受け止めが広がった。

とはいえ、円高は朝から一方向的に進んだ訳ではなく、午前中は146円半ばで売買が交錯する時間帯が続いた。植田総裁は従来通り金融緩和の継続も明言しており「ゼロ金利解除の前倒しは、可能性は低いが以前から指摘されていたこと。円高はそれほど続かないだろう」(国内証券のアナリスト)との声が当初は多かった。

夕方にかけて円をさらに押し上げる一因となったのは、中国人民元の急上昇だった。中国人民銀行(中央銀行)が元安阻止に向けた声明を発表したことなどで、元は対ドルで前週末の16年ぶり安値から急速に反発。対人民元で一気に強まったドル売り圧力が、対円にも波及した。

その後、中国当局の策の効果を疑問視する声もあって人民元が反落すると、円高も次第に収束。ドルはきょう午後に146.95円まで切り返した。日銀ゼロ金利解除観測の高まりによる円高は、実質1円程度だったことになる。

<円安にらんだマイナス金利解除、効果に疑念>

植田総裁の発言を受けて、エコノミストの間ではゼロ金利解除の予想時期を前倒しする動きが出ている。ドイツ証券は、これまで来年12月と予想していたマイナス金利政策の終了時期を1月に前倒しした。「インフレの想定以上の高止まりや、円安に対する警戒が(総裁の)タカ派的発言の背景」(チーフエコノミストの小山賢太郎氏)になったとの見方だ。

根強いインフレ抑制のため利上げを続ける主要国間で、大きく出遅れた日本がいつ引き締めに転じるかは、グローバル市場で最も大きなテーマのひとつ。それにもかかわらず円高が限られた要因は、一向に縮小しない日米金利差にある。

12日の円債市場では、10年債利回りが0.720%と2014年1月以来の水準へさらに上昇したほか、金融政策をより反映するとされる2年債利回りも一時0.050%と、今年1月につけた8年ぶり高水準へ接近した。しかし、米国の2年債利回りは現在5%近くを推移しており、円金利の上昇が金利差に与える影響はごくわずかだ。

さらに、日銀がマイナス金利の解除に踏み切る際は「これまでと同様に、その措置が引き締め的ではないと説明する『ドビッシュ・ハイク(ハト派的な利上げ)』となるだろう。米景気が強いままなら、結果的に円相場への影響はあまりない」(BNPパリバ証券のチーフエコノミスト、河野龍太郎氏)との意見もある。

市場の話題の中心はすでに、13日に米国で発表される8月消費者物価指数(CPI)へと移行している。「市場予想を上回れば日米金利差が再び拡大し、ドル/円が上昇へ転じる可能性も残っている」(みずほ証券のチーフ為替ストラテジスト、山本雅文氏)という。

※クロスマーケットは、.JPCM+ENTER キーで検索できます。

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アップル、見通しさえず株下落 第4四半期は予想上回

ワールド

米裁判所、マスク氏訴訟の手続き保留を決定 大統領選

ワールド

北朝鮮、31日発射は最新ICBM「火星19」 最終

ワールド

原油先物、引け後2ドル超上昇 イランがイスラエル攻
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後はさらなる「倒産増加」が予想される
  • 2
    「まるで睾丸」ケイト・ベッキンセールのコルセットドレスにネット震撼...「破裂しそう」と話題に
  • 3
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 4
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 5
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 6
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 7
    天文学者が肉眼で見たオーロラは失望の連続、カメラ…
  • 8
    中国が仕掛ける「沖縄と台湾をめぐる認知戦」流布さ…
  • 9
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 10
    自爆型ドローン「スイッチブレード」がロシアの防空…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 5
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 7
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 8
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 9
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 9
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中