ニュース速報

ビジネス

気候変動、貸出金利や金融商品への織り込み深化が課題=日銀副総裁

2022年11月27日(日)17時35分

日銀の雨宮正佳副総裁は27日、日本金融学会で「気候変動と金融」をテーマに講演し、脱炭素に向けて資金供給を円滑に進めるために、貸出金利や金融商品の価格に気候変動リスクや成長機会を一段と織り込んでいくことが課題だとの見解を示した。資料写真、日銀本店外観、2009年3月撮影(2022年 ロイター/Yuriko Nakao)

[東京 27日 ロイター] - 日銀の雨宮正佳副総裁は27日、日本金融学会で「気候変動と金融」をテーマに講演し、脱炭素に向けて資金供給を円滑に進めるために、貸出金利や金融商品の価格に気候変動リスクや成長機会を一段と織り込んでいくことが課題だとの見解を示した。金融機関の経営と金融システム安定に向け、気候変動への対応が重要になるとも指摘した。

2050年までの温暖化ガスの排出実質ゼロを目指す、金融機関のグローバルな有志連合「GFANZ」は、目標達成には世界全体で125兆ドルの投資が必要との試算を示している。雨宮副総裁は、円滑な資金供給の観点から「金融機関の貸出金利の水準や金融商品の価格付けに気候変動に対処するためのリスクや(成長)機会が適切に織り込まれているのかという視点は重要だ」と述べた。

日銀が8月に初めて公表した金融機関などを対象にした調査では、株式市場・社債市場ともに気候変動のリスクなどについて一段の織り込み余地があるとの見方が示された。雨宮副総裁は「多様な分析手法が試され、また、データの蓄積が進んでいくことで、気候変動問題への対処の影響が金融商品の価格に反映される度合いが増し、ネットゼロ社会の実現に向けて必要となる投資資金の円滑な供給を後押ししていくものと考えられる」と話した。日銀は、気候変動関連の市場機能調査を年1回のペースで実施していく方針だ。

雨宮副総裁は気候変動問題に関する金融経済分析上の課題として、分析モデルの高度化、自然科学分野との連携、データの蓄積を挙げた。

<脱炭素、金融システムに負の影響の可能性>

雨宮副総裁は、脱炭素に向けた動きが遅れる場合には大規模な自然災害や海面上昇によって金融機関の融資先に損失が生じる可能性が高まる一方、脱炭素に向けた動きが進む際にも、金融機関の既存の融資先が炭素排出の多い企業であれば融資先企業の資産価値は劣化すると指摘。いずれのケースでも「金融機関の投融資の量と質を変化させ、対応次第では金融システムに負の影響を及ぼす可能性がある」とし、金融機関経営と金融システム双方の観点から気候変動への対応は重要だと述べた。

気候変動は「中長期的に見て、経済・物価・金融情勢にきわめて大きな影響を及ぼし得る要因だ」とも語り、物価の安定と金融システムの安定を責務とする中央銀行の立場から、民間の気候変動対応を支援していくことは長い目でみたマクロ経済の安定に資するものだとした。

中央銀行の取り組みは「できる限りミクロの資源配分には介入しないことが基本」とし、市場中立性が重要だと述べた。温室効果ガスがもたらす悪影響を考慮して民間の投融資が行われていた場合には「そうした民間の投融資ポートフォリオに比例的に中央銀行が資産買い入れや資金供給を行う方が、脱炭素社会に向けた民間の動きに対して中立ということになる」とした。

日銀が昨年12月に始めた気候変動対応オペは、何が気候変動対応に資する投融資かという見極めを金融機関の自主的な判断に委ねることで、変化する企業の資金ニーズに柔軟に応えることができる仕組みだと説明。間接金融が中心の日本では、銀行を通じて脱炭素に資する投融資をバックファイナンスする気候変動オペが、大企業のみならず中小企業の脱炭素化に向けた取り組みを支援するにあたって「最も効果的な方法だ」と語った。

(和田崇彦)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米軍が「麻薬密売船」攻撃、太平洋側で初 2人死亡=

ビジネス

NY外為市場=英ポンド下落、ドルは対円で小幅安

ビジネス

テスラ、四半期売上高が過去最高 税控除終了前の駆け

ワールド

「貿易システムが崩壊危機」と国連事務総長、途上国へ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    やっぱり王様になりたい!ホワイトハウスの一部を破…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中