ニュース速報

ビジネス

アングル:ワクチンパスポートは航空業界の「救世主」になるか

2021年05月08日(土)08時26分

4月26日、新型コロナウイルスワクチン接種のデジタル証明書は、コロナ禍で打撃を受けた航空業界の救世主として政治家から歓呼で迎えられている。ロンドン・ヒースロー空港で1月撮影(2021年 ロイター/Henry Nicholls)

[26日 ロイター] - 新型コロナウイルスワクチン接種のデジタル証明書は、コロナ禍で打撃を受けた航空業界の救世主として政治家から歓呼で迎えられている。しかし当の航空企業幹部らは、既に発行された紙などの接種証明書を持った乗客への対応に時間がかかり、空港に長蛇の列ができる事態を心配して今なお眠れない夜を過ごしている。

アワー・ワールド・イン・データによると、世界で新型コロナワクチンの接種を完了した人々は現在2億2000万人を超え、少なくとも1回接種を受けた人は10億人近くに上る。

しかしその多くは、使い勝手の良いデジタル証明書が開発される前に接種を受けた人々だ。発行済みの証明書の件数は億単位に上るが、その位置付けが不透明になるという問題が浮上している。

国際航空運送協会(IATA)はロイターに対し、「各国政府はワクチン接種済みの旅行客に対する渡航制限を緩和し始めている。政府は紙の証明書の受け付けについて明確な指針を示すことが不可欠だ」との見解を書面で寄せた。

IATAと、世界の空港を代表する類似ロビー団体は既に、ワクチン接種歴について共通基準を設ける世界保健機関(WHO)の取り組みを支持している。新たな証明書はQRコード付きで、出入国審査の際に簡単にスキャンできるものとなる見通しだ。

WHOによると、ワクチン接種証明アプリ、もしくは新たな紙の接種証明書の最初のサンプルは、6月終盤に公表される見通し。

また欧州連合(EU)は夏までに「デジタル・グリーン・パス」と呼ばれる独自の証明書を導入したい意向だ。

しかし、航空業界は今後数週間中に売上高を回復させたいと躍起になっており、これでは間に合わない。

ある航空業界筋は、紙の証明書が新基準に沿っているかどうかを点検する作業は「多大な労力」を要するだろうと警戒感を示した。

<基準統一が肝心>

ワクチン接種証明の審査円滑化の経済的意義は、コロナ禍の中で2度目の北半球の夏を迎える航空・ホテル業界にとってこの上なく大きい。

最近配信された航空産業についてのポッドキャストでは、アナリストから「ワクチン接種が進めば航空需要は後からついてくる」との声が出た一方で、旅行の出発国と到着国が接種証明書の基準を統一できなければ、いくら接種が進んでも効果はないとの指摘もあった。

イスラエルやアイスランドは既に渡航受け入れを再開しているが、これらの国々に渡航するにはワクチン接種証明書が必須。オーストラリアのカンタス航空も利用客に接種を義務付ける見通しだ。

闇市場で偽の接種証明書が売られている問題も、状況を複雑にしている。

英国では最近、ロンドンのヒースロー空港で乗客が新型コロナ感染のチェックのために最長6時間も行列に並ばされる映像が流れ、旅行が回復した際の混乱ぶりが思いやられた。

今のところ、WHOが策定中の新基準に初期の接種証明書が組み込まれるかどうかについて、明確な発言は聞かれない。

WHOによると、デジタル、紙を問わず既存の接種証明書に新基準を適用するかどうかは、加盟194カ国の政府の判断に任される。

WHOはロイターに対し、「紙であれデジタルであれ、接種証明書を実際に利用可能なものとするには(以前の接種歴を)含み、反映させる必要がある」とし、「インドなど一部の国々は、既に1億件以上のワクチン接種証明書を発行済みであることを念頭に置くべきだ」と指摘した。

(Allison Lampert記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏が自身批判の人物に中指立てて暴言、自動車

ビジネス

世銀、26年世界成長率2.6%に上方修正 米国が押

ビジネス

再送中国25年貿易黒字、1兆ドル超で過去最高 トラ

ビジネス

米財政赤字、25年12月は1450億ドルに拡大 同
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広がる波紋、その「衝撃の価格」とは?
  • 3
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救った...実際の写真を公開、「親の直感を信じて」
  • 4
    飛行機内で「マナー最悪」の乗客を撮影...SNS投稿が…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「お父さんの部屋から異臭がする」...検視官が見た「…
  • 10
    「普通じゃない...」「凶器だ」飛行機の荷物棚から「…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中