ニュース速報

ビジネス

焦点:米FRBの実体経済支援、長期成長力との兼ね合いが課題

2020年05月29日(金)17時46分

 5月29日、新型コロナウイルスの流行を受けて、米連邦準備理事会(FRB)が実体経済の直接支援に乗り出しているが、こうした速やかな対応の裏で、「米国の長期的な経済成長力を損なわずにどのように企業や労働者を支援できるのか」という議論が交わされている。写真はリッ。チモンド地区連銀のバーキン総裁。ダラスで23日撮影(2020年 ロイター/Ann Saphir)

[ワシントン 29日 ロイター] - 新型コロナウイルスの流行を受けて、米連邦準備理事会(FRB)が実体経済の直接支援に乗り出しているが、こうした速やかな対応の裏で、「米国の長期的な経済成長力を損なわずにどのように企業や労働者を支援できるのか」という議論が交わされている。

本来なら消滅するはずの企業や産業をFRBの対策で延命させれば、米経済の生産性が低下し、かえって回復が遅れるのではないかとの懸念が浮上しているためだ。

「バランスが非常に難しい」ーー。リッチモンド地区連銀のバーキン総裁は最近のインタビューでこう語った。今月の米失業率は20%を超える可能性が高く、雇用対策は急務だが、新型コロナ後の新しい社会で必要とされない仕事に労働者が復帰する恐れがある。

総裁は「まずは成長産業を見定める必要がある」と指摘。ニューヨーク連銀も、前回の景気後退後に導入された職業訓練制度について、時代のニーズに合った訓練を提供できず、失業がかえって長引いた可能性があるとの研究報告をまとめている。

<来週からスタートの貸出制度>

FRBは来週までに、従業員500人ー1万5000人の企業に民間銀行を通じて融資する「メインストリート貸出制度」をスタートする予定だ。この制度は約2カ月前に発表されたが、細部を詰めるのに時間がかかり、開始が遅れていた。

同制度を管轄するボストン地区連銀のローゼングレン総裁は、融資条件の落としどころについて、「問題のない」企業にとっては割高で、民間銀行が資金を貸し渋る問題のある企業を退場させる水準を目指したと説明している。

同総裁は24日、CBSの番組で「昨年末にかけて問題なく営業していた企業をターゲットにしたい」と発言。FRBは今回の制度について、目的は救済ではなく、FRBが利益を上げられるような形で「ライフイライン」として資金を提供することにあると説明している。

<高くない資金需要>

FRBがこれまで導入してきた緊急制度は、主に金融機関向けだが、利用はそれほど多くない。これはFRBの政策が奏功した証しだと受け止められている。FRBが金融市場を支援する方針を表明したことで、投資家の間に安心感が広がり、ボーイング、フォード・モーターといった企業が自力で資金を調達できた。

欧州でも、中央銀行が緊急の「流動性」対策を打ち出したが、実際に制度を利用する金融機関は限られており、金融機関に必要だったのは「万が一の場合に利用できる」という安心感だったことがうかがえる。

だが、実体経済で活動する数千社が対象となり得るFRBのメインストリート貸出制度は話が別だ。当のFRBでさえ、旺盛な需要を予想している。世界的に危機が広がる中、過度に厳格な条件を設定したくないというのも本音だ。

日銀も金融機関を通じて中小企業の資金繰りを助ける資金供給策を決定。英政府も同様の制度を導入したが、細部が重要であることが浮き彫りとなった。英政府が危機で打撃を受けた企業向け銀行融資の80%を保証すると表明しても、銀行は融資に慎重だったが、保証を100%に引き上げると融資が倍増した。

<再配置のショック>

一部のエコノミストは、今回の新型コロナ危機で発生しかねない不良債権という負の遺産についてすでに議論を始めている。1990年代の貯蓄貸付組合(S&L)危機や2007年の住宅バブル崩壊で必要になった不良債権対策と同じような措置がまた必要になるのかという議論だ。

一方、労働市場と企業投資については、すでに「再配置のショック」が始まっているとの指摘が出ている。

シカゴ大学の経済学者ホセ・マリア・バレロ、ニック・ブルーム、スティーブン・J・デイビス各氏は共同論文で、今回のコロナ危機で失われた雇用の40%以上は、永久に消滅すると推定。政府は新たな仕事への移行を促すべきで潤沢な失業給付を長期にわたって給付すべきではないと訴えている。

ただ、新しい仕事や新しい産業への移行は「破壊」の後に実現するとみられ、「こうした理由もあり、景気の回復には時間がかかると予想している」という。

(※原文記事など関連情報は画面右側にある「関連コンテンツ」メニューからご覧ください)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米韓通商協議に「有意義な進展」、APEC首脳会議前

ワールド

トランプ氏、習氏と会談の用意 中国「混乱の元凶」望

ワールド

ロシアとサウジ、OPECプラス協調「双方の利益」 

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中