ニュース速報

ビジネス

アングル:日本で「デジタル人民元」警戒論、ドル基軸揺らぐ恐れ

2020年01月24日(金)18時41分

日本の政府・与党で中国政府が開発を進めるデジタル人民元への警戒感が高まっている。中国がデジタル人民元を実際に発行すれば、伝統的な金融サービスの恩恵から遠く、中国の影響力が強いアフリカ諸国で急速に広まり、米ドル基軸体制が揺らぐ可能性があるとみるからだ。写真は人民元と米ドル紙幣。2017年6月、シンガポールで撮影(2020年 ロイター/Thomas White)

和田崇彦 浜田寛子

[東京 24日 ロイター] - 日本の政府・与党で中国政府が開発を進めるデジタル人民元への警戒感が高まっている。中国がデジタル人民元を実際に発行すれば、伝統的な金融サービスの恩恵から遠く、中国の影響力が強いアフリカ諸国で急速に広まり、米ドル基軸体制が揺らぐ可能性があるとみるからだ。中銀デジタル通貨を巡り、自民党内では「デジタル円」の発行を視野に、官民で早期に研究に着手すべきだとの声が出始めた。

<令和初の賀詞交歓会で>

麻生太郎財務相は6日、全国銀行協会の賀詞交歓会で、中国の台頭に警戒感を示し、中国人民銀行が開発に取り組むデジタル人民元が「国際決済で使われることを頭に入れておく必要がある」と発言。新年を祝う席では冗談を交えながらにこやかに話すことが多い麻生財務相が、メモを手に真剣に語ったことで、銀行関係者に驚きの声が上がった。

自民党内でも、デジタル人民元の可能性を探る動きが本格化した。同党議員で作る「ルール形成戦略議員連盟」(会長=甘利明・元経済再生相)は、デジタル人民元が金融面で覇権を握る可能性を見越して勉強会を始めた。

<2月にもデジタル円で提言>

同議連の事務局長、中山展宏外務政務官はロイターの取材に応じ、「デジタル円」の発行を視野に早期に官民で検討を始めるよう提言をまとめ、2月にも政府に提出する方針を明らかにした。

中山氏は、デジタル人民元が発行された場合にアフリカ諸国で急速に普及する可能性に警戒感を示す。アフリカ諸国の人々は伝統的な金融サービスから距離が遠い。中山氏は「自国通貨よりもデジタル人民元が安定した通貨で決済しやすいとなれば、そちらに流れていく。そうなると中国の影響力が非常に強くなる」と話す。

中山氏はまた、デジタル通貨は金融政策のツールとしても有効だとみている。「日本はマイナス金利なので、デジタルにしていくことの意義が大きい」と指摘する。

<中国の狙いは「人民元の国際化」>

デジタル人民元の開発を進める中国について、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト(元日銀審議委員)は「最大の狙いは人民元の国際化だろう」と指摘する。将来的に米中の対立が激しくなって金融制裁を受けたときに、中国の経済が成り立たなくなってしまうとの危機感が背景にあるとみている。

米国が金融制裁をする場合、米ドルの流れを封じることになるが、もしデジタル人民元が力を持てば米国一国では制裁が利かなくなる。

<中央銀行は「研究競争」>

中央銀行はデジタル通貨の研究競争の様相を強めている。21日には、日銀、欧州中央銀行など6中銀が中銀デジタル通貨の共同研究チームを発足させると発表したばかりだ。

日銀は現時点でデジタル通貨の発行には消極的だ。木内氏は、仮に日銀が中銀デジタル通貨を発行する場合、運営・発行は民間、課題への対応は日銀という「官民分業」で行うのが望ましいと話す。「日銀としては、民間のイノベーションを圧迫するのは避けたい」(木内氏)ため、民間のイノベーションによるメリットは消費者にきちんと還元される形にしながら、金融政策・金融システム上の課題、マネーロンダリング防止対策、個人情報管理といった諸課題は日銀が対応していくのが望ましいと指摘した。

(取材協力:木原麗花、梶本哲史 編集:内田慎一)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米FRB議長人選、候補に「驚くべき名前も」=トラン

ワールド

サウジ、米に6000億ドル投資へ 米はF35戦闘機

ビジネス

再送米経済「対応困難な均衡状態」、今後の指標に方向

ビジネス

再送MSとエヌビディアが戦略提携、アンソロピックに
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中