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焦点:日産・ルノー、会長人事で対立 統治委内に兼任難色の声

2019年02月19日(火)16時42分

[東京 19日 ロイター] - カルロス・ゴーン被告の逮捕後に悪化していた日産自動車<7201.T>と仏ルノーの関係は、ルノー新会長が就任1カ月足らずで来日し、両首脳らが直接対話したことで一定の修復が図られた。

ただ、意見が対立しているにもかかわらず、今回は「話題にしなかった」(両首脳)日産の会長人事では、日産の企業統治(ガバナンス)改革に向けて設置された委員会の中からも、日産・ルノー会長兼任に難色を示す声が上がっている。

14日から2日間かけ、日産と三菱自動車<7211.T>の両経営幹部らと精力的に意見交換したルノーのスナール会長は「とても実りある交渉と議論ができた。ビジネス全般、特に3社連合の将来について話し合った」と16日に語り、羽田空港を飛び立った。

日産とルノーの両社は、逮捕直後は前会長ゴーン被告の処遇を巡り解任・留任で対応が分かれたほか、日産社内には不正行為の温床となったゴーン氏の会長職兼任による権力集中にも批判が高まった。経営の独立性にこだわる日産と経営一体化を進めたいルノーとの間のきしみも目立っていた。

今回のスナール会長の来日で、三菱自も含めた3社連合の強化が再確認され、危ぶまれた「空中分解」のリスクは、ひとまず大幅に低下した。

ただ、空席のままとなっている日産の会長職は、日産とルノー間の火種の1つとして今なおくすぶり続けている。

日産が統治改革に向けて設置した「ガバナンス改善特別委員会」。弁護士ら外部有識者7人のメンバーで構成される15日に開かれた第3回会合では、本格的な議論が交わされ、所要時間は6時間超に及んだ。

複数の関係者によると、今回の会合で、提言する内容すべての方向性が固まったわけではないものの、ゴーン被告による不正行為の一因となった「会長職権限」の縮小や、業務の「執行と監督の分離」を中心に提言をまとめるという方向では、おおむね意見は一致したもよう。

ゴーン被告は定款に基づいて取締役会議長と会長を兼任していたが、権限集中を避けるための具体策として、委員会では「社外取締役が取締役会議長を担うべき」(関係者)との意見が上がった。会長職は3社の調整役として今後も重要な役割を求められるが、ゴーン被告が務めていた日産とルノー両社の会長兼任については「あまり歓迎していない」(別の関係者)という。

日産としては、両社の会長兼任の是非について、委員会の提言を「尊重する」(日産関係者)との立場を取るとしたうえで「ガバナンスの問題が発生する。特に利益相反の問題が出る」として、両社の会長兼務に対する警戒感は非常に強い。

関係者の話では、会長候補者を推薦するなどの人選、資本関係の見直しや経営統合などについて、委員会は議論の対象としておらず、提言に具体的に盛り込む予定はないとしている。

一方、日産とルノー間で締結している協定の中に、日産の最高執行責任者(COO)以上の役職者をルノーが送り込むとの条項が明記されている。

日産に43%出資する親会社のルノーと、ルノーに15%出資する筆頭株主のフランス政府は、ルノー新会長のジャンドミニク・スナール氏に日産会長も兼任させたいとの思惑がある。

日産にとって、自らの意思を貫くには、「資本関係」という大きな壁が障害になりかねない。

ルノーは日産に43%出資して議決権を持つのに対し、日産はルノーへの出資が15%にとどまり、議決権もない。ルノー優位の資本関係とは逆に、業績面ではルノーの利益の半分近くが日産の株式持分からの利益で、ルノーの収益構造は日産に依存している。

こうした面からも日産は、資本の論理だけでルノーに経営の主導権を握られたくないとの思いがある。

同委員会は、業務の執行と監督を分ける「指名委員会等設置会社」への移行も提言に入れる方向で調整中だ。日産は現在、監査役は置いているが、取締役候補を選ぶ「指名委員会」と役員報酬を決める「報酬委員会」がない。

「監査」「指名」「報酬」の3つの委員会設置を提案し、各委員長は社外取締役が務め、メンバーの過半数を社外取締役が占めるようにすることで、外部からの監視を強めることができるとの思惑がある。

スナール会長との一連の会談を終えた15日夜、西川廣人社長は「有効な時間を過ごせた」と会談を振り返り、「権力の集中を目的とした組織はお互いに非効率を招くということを十分(スナール会長と)シェアした」と述べ、一定の成果を強調した。

だが、両社の融和ムードが持続できるかどうかは、会長人事を含む懸案事項を巡る今後の交渉の行方にかかっている。

(白木真紀、梅川崇、小野真由子 編集:田巻一彦)

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