コラム

豪首相「さよなら君主制」の波紋

2010年08月18日(水)15時19分

 与野党接戦のオーストラリア総選挙が今月21日に迫るなか、ジュリア・ギラード首相が、イギリス女王を元首とする立憲君主制を廃止することを提案した。ただし、その時期はエリザベス女王が退位してからという。


「首相として私が望むのは、共和制での国民的合意を達成することだ。ただ、わが国が共和制に移行する時期は王位継承時がふさわしいと思う」とギラードは述べた。

もちろんエリザベス女王には長く幸せに生きてほしいと、ギラードは付け加えた。「女王のお母様と同じように、きっと女王も長生きされることだろう」 


 野党自由党のトニー・アボット党首は、君主制を強く支持している。女王の代わりに大統領を選ぶことの是非を問うた99年の国民投票は、反対多数だった。

 ギラードの発言は女王への敬意を表したつもりだろうが、女王の死去に言及することが適切だったかどうかは分からない。

 とはいえ首相の提案は、ヨーロッパの君主制の未来について興味深い疑問を投げ掛けている。現世代の西欧の国王は、政治的権力は持っていないが、何十年も在位していることもあって国民からある程度の尊敬を集めている。スペインのフアン・カルロス1世の在位期間は34年、オランダのベアトリックス女王は30年、スウェーデンのカール16世グスタフは36年、イギリスのエリザベス2世は58年だ。

 彼らの子孫は、現代ヨーロッパで国王が存在し続ける意味を臣民に納得させるのにかなり苦労するかもしれない。チャールズ皇太子とその後を継ぐウィリアム王子は一層大変だろう。時代錯誤なことに、彼らは法的には16の独立国の元首になるのだから。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年08月17日(火)11時39分更新]

Reprinted with permission from"FP Passport", 18/8/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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