コラム

ネット時代にはNHKも有料放送にして民営化すべきだ

2015年02月26日(木)18時59分

 総務省は、NHKの放送のインターネット同時配信を認可する方針を発表した。今は「NHKオンデマンド」という形で録画した番組を有料で放送しているが、これをBBCのiPlayerのような同時配信サービスにするものだ。これがBBCより8年も遅くなった原因は、受信料制度の見直しとからんでいるためだ。

 NHKの内部ではネット同時配信サービスをやりたいという要望は強く、そういうサービスが実験されたこともあるが、総務省が待ったをかけた。民放連(日本民間放送連盟)が「民業圧迫だ」と反対したからだ。この結果、NHKオンデマンドは独立採算になり、いまだにビジネスとして自立できない。

 今回決まった同時配信も試験的な無料サービスで、NHKは2015年度内のサービス開始をめざしているが、有料化の計画ははっきりしない。一部のメディアでは、ネット端末からも受信料を取る放送法の改正を総務省が検討していると報じられ、NHKの籾井会長も「ネット視聴者からも受信料を徴収したい」という意向を表明している。

 現在の放送法では「協会[NHK]の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と定めているが、受信料を払う義務はなく罰則もない。

 この「受信設備」はテレビのことで、ワンセグやテレビチューナー付パソコンは含まれるが、インターネット端末は含まれない。受信設備にネット端末を含めると、携帯電話のほとんどが含まれるので、公称70%台の徴収率がさらに悪化し、負担の不公平感が強まるおそれがある。

 この問題の解決策は、技術的には簡単である。ほとんどのテレビについているB-CASシステムをネット端末にもつけ、受信料を払わない人にはスクランブルをかける有料放送にすればいいのだ。もともとB-CASは有料放送のためにつくられたもので、地上波にもつける予定だったが、結果的には見送られた。今はBS受信料を払っていない人にはスクランブルがかかるが、これは受信契約をお願いする手段という位置づけだ。

 なぜ有料放送の技術があるのに、使わないのだろうか。それは有料放送にすると、受信料を払う人が減るからだ。今は民放だけ見ている人も受信料を払わなければならないが、有料放送にするとNHKを見ていない人は払わなくてよい。スクランブルをかければ徴収率は100%になるが、おそらくNHKと受信契約する人は今より減るだろう。

 逆にいうと、今はNHKを見たくない人からも受信料を取っているわけだ。60年前のように電波を止める技術がなかった時代ならしょうがないが、今はスクランブル技術がある。「有料放送にすると商業的になり、公共性が失われる」という反論もあるが、BSの過去25年の実績からみると、有料放送にしても(よくも悪くも)NHKらしさは変わらないだろう。

 有料放送にすると減収になるというのがNHK経営陣の心配だが、これを解決する方法はある。今は一括契約になっている企業の契約を受信機1台ごとにし、各家庭の受信機も1台ごとに視聴料を取ればいいのだ。報道だけなら独立採算でも十分やっていけるので、総合テレビを24時間ニュースにしてNHKに残し、あとの電波は売却する手もある。

 メディアの多様化した時代に、NHKだけが7波(テレビ4波・ラジオ3波)も保有し、すべての人にあまねく見られる必要はない。BBCは「われわれはテレビ局ではない」と宣言して、ビジネスの中心をネットに移した。ネット時代に、インフラとコンテンツを「垂直統合」したビジネスモデルを続ける理由はないのだ。

 有料放送にするもっとも重要な理由は、完全民営化できることだ。今のNHKは、政権との距離が近すぎる。その最大の理由は、NHK予算を国会で承認する受信料制度にある。政治のくびきから解き放たれ、グローバル展開も自由にできる有料放送は、言論機関としてのNHKにとっても望ましい改革である。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

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