中傷合戦をしている場合ではない
私の区長としての仕事が滑り出しましたが、まだまだ、本格的な改革に取り組める段階ではありません。杉並区がミュニシパリズムを名乗るに足る自治体になるには、もう少し時間がかかるでしょう。
でも私は、ミュニシパリズムとは、個別具体的な政策ではなく信念であり態度なのだと思います。住民が互いを信頼し、対話と協働を通じて地域の問題を解決していくという、強い確信と倫理観こそが市民政党や首長を生み、「恐れぬ自治体」をつくるのです。杉並の現状はまだまだそれに遠いけれども、そのための土壌をいまつくっているのだという実感はあります。(32〜33ページより)
とりわけ選挙期間中は対立候補同士の足の引っ張り合いが顕著化するし、実際に現時点でも、岸本氏に向けて、あまり客観的とは思えない中傷も表面化している。しかし世界規模の潮流があるなかで、リベラルだとか、保守だとか、○○派だとか、そんな争いをしている場合ではないはずだ。
本書を読み込めば、岸本氏が「どんなことを考えているのか」が分かる。それを確認してから、「自分はこの人を支持するのかどうか」を判断すればいいのではないだろうか。
本編の大半は2020年から2021年末まで、つまり杉並区長に立候補する前に書かれたものである。「マガジン9」というウェブマガジンに連載していたという「ヨーロッパ・希望のポリティックスレポート」に基づいており、その目的は“当時のヨーロッパでリアルタイムに起きている動き”を伝えることだったそうだ。
つまり「杉並区政についての本」ではない。それでも、ミュニシパリズムという、いま意識しておくべき概念と、それが生み出した結果を知るために、読んでおくべき価値は確かにあると感じる。
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。他に、ライフハッカー[日本版]、東洋経済オンライン、サライ.jpなどで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『この世界の中心は、中央線なのかもしれない。』(辰巳出版)など著作多数。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。
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