コラム

ドイツ人があがめるのは、マルクス像か中国マネーか

2018年05月19日(土)13時50分

何語で共産主義を学んだかはともかく、マルクスの仮説を制度化した結果、ソ連と中国は20世紀の人類に災禍をもたらした。ソ連では苛酷な弾圧の下、30年代前半にスターリンの農業集団化によりウクライナ地方でジェノサイド(大虐殺)と称される大飢饉が発生した。

そのソ連を模倣した中国は58年から大躍進運動で人民公社制度を導入し、国民3000万人以上を餓死させた。さらにチベットやモンゴル、ウイグルを侵略し、住民を「搾取階級」として殺害。「労働者人民を解放」するとの名目で併合した。「人道に対する罪」がマルクス主義の旗の下で断行されたわけだ。

中国はこれからもマルクス主義の旗を高く掲げて特色ある社会主義を堅持すると、豪語してやまない。しかし「中国的特色のある社会主義」を掲げつつ、実際には資本主義以上に利潤を追求して世界各地に資本をばらまいている。アフリカとアジアの小国を植民地にしようと国内の「階級闘争」をあおっている。

今や世界最大の「搾取階層」政党と化し、世界各地で搾取を行うアジア的共産主義の現実。これには天国のマルクスも驚いて、『資本論』を書き直したくなるに違いない。

<本誌2018年5月22日号掲載>


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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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