コラム

習近平「治国思想」の元ネタは毛沢東の暴力革命論にあり

2017年10月13日(金)11時15分

「暴君の下に暴民あり」

毛は農民の土地私有化を否定し、58年に人民公社という名の公有化を行った。実質上は、一握りの共産党高官が全国の農民を搾取する、国家財産の独り占めだ。その結果、農民は土地を奪われ、餓死した数は数千万人に上る。これが毛沢東思想と称する暴力革命論の結末だ。

「暴君の下には必ず暴民がいる」と、ある哲人は指摘する。毛とその信奉者は北京を世界革命の中心地に、中国の革命思想を世界に輸出しようと、アフリカや南米、東南アジア諸国に内政干渉した。日本でも進歩的知識人や左派を自任する人たちが毛の思想に心酔。その一部は72年にあさま山荘事件を起こすなど、本気で大都市を包囲する作戦を練っていた。

毛は76年に死去。81年に共産党は「歴史決議」を採択しその政治手法を公式に否定するなど、毛は名実共に過去の遺物と化した。だが、あたかも天安門広場に安置された毛の遺体を生き返らせるかのように、習は毛沢東思想を巧みによみがえらせた。

それが人権・民主・平等を求める国民を容赦なく弾圧し、他国との領土問題では砲艦外交で臨む、という「治国思想」だ。「3つの代表」「科学的発展観」といった温和な仮説をくず籠に捨て、中国から世界を包囲する強硬路線を突き進む「習の治国思想」が確立されれば、世界は悪夢にさいなまれかねない。

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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