コラム

フランス領コルシカ島に忍び寄るカタルーニャ独立騒動の余波

2017年11月29日(水)19時00分

民族主義勢力の台頭

こうした民族主義勢力が、政治的な動きを強め、力をつけてきたことの長期的要因としては、FLNCの武装闘争路線が失敗し、非合法活動路線から脱却したことが大きく関わっている。それまで民族主義勢力のなかに、非合法活動と連帯する動きがあり、そのことが穏健な民族主義勢力の団結や結集を妨げていた。しかし、FLNCが武力闘争路線からの脱却を宣言した以上、いまや、民族主義勢力の間で、連携をとり、協力していくことにあたっての障害はなくなったのである。FLNCの武装解除声明は、民族主義路線にとって、新たな支持者を調達する方向に寄与したと言える。

しかし、もしその民族主義勢力がこんどの選挙で敗れることになる場合、かれらの一部が「パリとその一味に勝利を奪い取られた」として、武装闘争路線に戻る可能性も、一部では囁かれている。FLNCから分裂し、分派として活動を続けている「10月22日のFLNC」は、今年9月末に声明を発表し、来る選挙で民族主義勢力が過半数を制するよう呼びかけるとともに、自治の拡大が実現できない場合には、「カタルーニャで起きたような住民の蜂起」が起きると警告した。

一方、民族主義勢力が勝利した場合には、新しい自治体の下で、強化された権限をフルに行使するだけでなく、さらに、自治拡大の要求を強めていくことになるだろう。それが独立要求というところまでいくかどうかは、今の時点では見えていない。少なくとも、「コルシカのために」は、公約に独立までは掲げていない。

自治派のシメオニは「独立は我々のプログラムにはない」と言い切っている。ただし、自治権の拡大の延長として、コルシカ語の公用語化、完全な自治権を有するコルシカの特別の地位の承認、コルシカ民族の承認などを、要求している。しかしそれは、フランスを「一つにして不可分の共和国」とし、公用語をフランス語と定めるフランス共和国憲法に違反するため、憲法改正が必要となり、ハードルは高い。

独立派のタラモニも、「任期の間に果たし得る公約として、独立は主題になり得ない」としているが、独立が最終的な政治目標であることは隠さない。自身のアイデンティティに関し、「私はまずコルシカ人だと感じる。フランス人だとは感じない。しかし、反フランスでもない」と述べたり、あるインタビューで「わが『友好国』であるフランス」と発言したりしている。

この二人のいずれが主導権を握っていくのかによって、今後の流れも変わってこよう。今のところ、自治派のシメオニのほうが支持者も多く、優勢と見られる。そのシメオニは、「コルシカはカタルーニャとは違う」として、カタルーニャの独立騒動とは一線を画す姿勢を示している。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ノボ、米で「ウゴービ」値下げ CEO「経口薬に全力

ビジネス

米シェブロン、ルクオイルのロシア国外資産買収を検討

ビジネス

FRBウォラー理事、12月利下げを支持 「労働市場

ワールド

米下院、エプスタイン文書公開巡り18日にも採決 可
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story