「イノベーション」か「安心安全」か──念には念を入れすぎる日本の意外な効用

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<「何か起こった時に考える」とはならない日本では、新しい技術は生まれづらい。しかし、自動運転の車にひかれることも、暗号資産が突然消えることもない。人に優しい社会とは?>
暗号資産交換所大手の米FTXトレーディング社が経営破綻した。暗号資産は日本語でいまだに「仮想通貨」と呼ばれているせいか、仮想=実体がない=信用できない、というイメージを持つ人が日本には大勢いる。
だから、FTX破綻のニュースを見て、「それ見たことか」と思った人もいるだろう。だが意外なことに、世界中に約130あるFTXの関連会社のうち、日本法人では顧客の資産が守られていると報道され、鈴木財務相もそれを確認している。
FTXの破綻は、同社が顧客から預かった資産を使ってハイリスクな運用を行い、多額の損失を出したことが原因だと現時点では報じられている。
だが日本の金融庁は、アメリカに比べて非常に厳格な法令を敷いていて、日本の暗号資産交換所に対し、顧客から預かっている資産を自社の資産とは分けて管理することを徹底させている。そのため顧客資産が交換所に勝手に運用されることはなく、保全されているというのだ。
もちろん、日本法人も米FTX本社のシステムを使っているため、日本の顧客が自分の資産を本当に出金できるかどうかはまだ予断を許さないところではある。それでも暗号資産ビジネスで周回遅れだと思われていた日本が、結果的に最もまっとうで安全だったのである。
日本の金融庁は、厳格な規制で知られる監督官庁といわれる。日本では金融システムは「社会インフラ」の1つと考えられ、いついかなるときもダウンすることなく、安定的に運用することが求められる。
ATMはいつもきちんと動いていなければならないし、店舗が勝手に休業することは許されない。臨時休業するためには、行政庁に届け出をし、公告し、店頭掲示を行い、業務再開時も同様の手続きを踏まなければならない。2019年の法改正でやっと、天災などの場合はこれらの手続きが免除されることになったくらいだ。
金融庁だけでなく、「念には念を入れよ」は日本人の仕事の場での特質である。例えば指さし確認。工場でも電車の運転でもこれをやる。
他国で運転手や車掌が指をさし、声を出して確認しているのを見たことがある人はいるだろうか?
私はない。だからこそ日本の電車の運用は驚異的に正確で安全なのだろう。
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