コラム

テロもフェイクニュースも影響が限られたフランス大統領選

2017年05月10日(水)16時30分

しかし、マクロンは選挙期間中から親EUを説き、グローバル経済の中で勝ち抜くにはより競争力を高めるための厳しい痛みを伴う政策が必要と訴えてきた。その点ではオランドのような失望を招くことはなく、公約通りの政策を実行することは可能であろう。しかし、それは国民の不満を解消するどころか、一層深めていく可能性すらある。そうなれば、国民戦線への支持が高まっているような状況を再度作り出すこととなり、次の選挙ではかなり厳しい戦いを強いられることになるであろう。

とりわけ移民問題については、国民戦線とは対極にある寛容さ、多様性を追求する政策を主張し、リベラルな有権者を引きつけることに成功したが、もしテロが起き、その対処に失敗すれば、これまで移民に対して寛容な主張をしてきた支持層も失望することになるだろう。

マクロン大統領のフランスでは、経済ではネオリベラルな緊縮財政を進めることになり、それがフランスの経済成長と雇用を生み出すという結果を伴わなければ、マクロンへの失望は高まるであろうし、非物質的な価値の側面ではリベラルな政策をとるが、これらも移民の増加やテロの頻発と言った問題に直面すると、国民の失望を招くことになる。そうなると、マクロンが大統領として成功する道は極めて厳しく狭い道となる。

それも国民議会選挙をどう戦い、どの程度、マクロンの「前進!」が議席を獲得し、どの党と連立を組むのか、といったことに依存する。マクロンが提示した公約を実現することを支持する政党と連立し、与党を組むことが出来るかどうか、それが最初の試練であり、それを乗り越えられなければ、マクロン政権の5年間は議会との調整、対立、妥協に明け暮れる5年間となるだろう。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

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