コラム

フェイクニュースは戦争を起こす?!

2017年01月30日(月)18時00分

フェイクニュースの行方

 では、フェイクニュースは伝統的なメディアを駆逐してしまうのだろうか。この点に関しては2016年の選挙でフェイクニュースがどの程度影響があったかの研究が進んでいるが、AllcottとGentzkowの研究ではフェイクニュースがトランプ支持派に多くシェアされ、トランプを支援するフェイクニュースがクリントン支持のものよりも多かったが、その影響は限定的で、テレビでの選挙CMの方が影響力が大きかったと結論づけている。

 選挙に直接的な影響はないとしても、フェイクニュースの登場はニュースの発信者、受信者ともパニックに陥れる。トランプ大統領も記者会見でCNNの記者に対して「おまえのところはフェイクニュースだ」とレッテルを貼ったように、今や何がフェイクで何が事実に基づいたニュースなのか判断しにくくなり、ニュースの受け手も疑心暗鬼になっている。日本では福島原発事故以降に登場した「マスゴミ」という表現があったが、これも一種の疑心暗鬼の結果だったといえるだろう。

 しかし、公的な権力を用いてフェイクニュースを取り締まることは表現の自由の観点から見ても望ましいことではない。そのため、ドイツではフェイクニュースと認定された記事をSNSのプラットフォームが警告を出すなどして対策をとらなければならないという法律を検討している。こうした対策がどの程度功を奏するかはわからないが、フェイクニュースの流通を許さないという意思表示は一定の効果を生むのではないかと考えられる。

 ただ、フェイクニュースの将来を決めるのは、やはり受け手である我々である。フェイクニュースが話題に上り、オルタナ右翼やロシアなどのプロパガンダメディアの影響が叫ばれることで、しばしば見落とされがちだが、すでに述べたとおり、フェイクニュースが席巻するのは、人々が自分の都合の良い情報を手に入れようとするからであり、信用できるソースなのかどうかを確認せずに拡散していく、ということである。こうしたニーズがあるからPV目当てのフェイクニュースが乱造されるのであり、そうして拡散するから広告を出稿する広告主が現れるのである。

 我々が北朝鮮中央テレビのプロパガンダを見て、それが全て真実だと思わないように、フェイクニュースを見ても、それはおかしいと感じるリテラシーが必要であることは言うまでもない。しかし、全ての人が高いリテラシーを身につけることを期待することもまた難しい。なので、重要になるのは、Newsweekなどの信頼できるニュース機関以外からの情報や記事に接する際には、その情報をまずは疑ってかかること、そして信頼できるかどうか、他にも同じ内容の記事があるかどうかを確認することが大事である。それも面倒であれば、一番良いのは信頼できるニュース以外は全て無視し、いかに刺激的な見出しであっても容易にクリックしない、ということである。クリックをしてしまえば、PVにカウントされ、フェイクニュースをはびこらせる餌を与えるのと同じだからである。怪しげなソースの記事はスルーすることでフェイクニュースが蔓延する余地はかなり小さくなると考えられる。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

カナダ中銀、利下げペースは緩やかとの想定で見解一致

ワールド

米制裁が国力向上の原動力、軍事力維持へ=北朝鮮高官

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3% 市場予想

ビジネス

バイオジェン、1―3月利益が予想超え 認知症薬低調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story