「首相を殺しても逮捕されない」イギリス王室を守る鉄壁の「免責特権」とは?
Above the Law?
22年9月の故エリザベス女王の葬儀で、公務から外れたアンドルーは軍服を着用できなかった USA TODAY NETWORKーREUTERS
<「ピューリタン革命ぶり」の逮捕に衝撃が広がるが、これまでも英王室メンバーは「免責特権」に守られてきた──>
チャールズ英国王の弟であるアンドルー元王子が公務中の不正行為の疑いで逮捕され、事情聴取後に釈放された件は大きな衝撃を巻き起こした。
【写真】スカート姿の女性を並べて...性虐待疑惑のアンドリュー元王子の「おぞましい」スキャンダル写真
警察は捜査の詳細を明らかにしていないが、米政府が1月末に公開したいわゆるエプスタイン文書を基に容疑を固めたようだ。アンドルーは英政府の貿易特使を務めていた時期に、実業家のジェフリー・エプスタインに自国の機密情報を与えた疑いが持たれている。エプスタインは未成年者に対する性的虐待などで有罪となった人物だ。
今回の逮捕は性的暴行など性犯罪の容疑によるものではない。
アンドルーは以前にも性的虐待のかどでエプスタインの少女買春の被害者に訴えられたが、2022年に和解している(和解金額は非公表で、アンドルー側は法的責任を認めていない。被害者のバージニア・ジェフリーは昨年4月に自殺した)。
エプスタイン文書に名前があっても、その人が罪を犯したとは限らない。これまでアンドルーはエプスタイン絡みでの違法行為を全て否認し、貿易特使の職務を自身の利益のために利用したことは一切ないと主張している。

アンドルーは2001年に当時のトニー・ブレア政権の要請を受けて、貿易特使に就任した。無報酬の公務だが、在任中は盛んに外遊を重ねた。
英政府が王室メンバーを貿易振興のために外国に送り出すことは珍しくない。外国、特にイギリスと同じ立憲君主制の国との交渉では、王族など高位の人物を送り込めば話がまとまりやすい。
実際、ブレア政権は相手国の「王族や元首、閣僚や企業トップと直接交渉を行う」にはアンドルーの「特別な地位」が大いに役立つと期待していた。
アンドルーは2011年にエプスタインとの関係が報道されると貿易特使の任務を退いた。エプスタインが有罪を言い渡されたのは2008年だ。
王室メンバーには免責特権はないのだろうか。君主は「主権免責」(国家は原則として他国の裁判所に服さないという国際法の理念)で守られ、刑事・民事を問わず何らかの法的責任を問われることは一切ない。
19世紀のイギリスの憲法学者、アルバート・ダイシーは君主は「首相の頭を銃弾で撃ち抜いても」起訴されることはないと断言した。王位継承権第1位のプリンス・オブ・ウェールズの称号を持つ人(現在はウィリアム皇太子)もいくつかの違法行為に対し免責特権を持つ。
ピューリタン革命以来
1978年に制定されたイギリスの法律「国家免責法」は国家元首の免責特権を認め、元首の「家庭を構成する家族のメンバー」もその対象となると定めている。しかしこの規定は狭く解釈され、一般的には元首の子供には適用されないと考えられているようだ。
例えばエリザベス2世の娘であるアン王女はウィンザー・グレート・パークで飼い犬が公園内にいた人にかみついた事案で法的責任を問われ起訴された(逮捕は免れた)。
そうはいっても、王室メンバーは法的には一般人と異なる扱いをされると思われがちだ。2016年にはまだ王子だったアンドルーがウィンザー・グレート・パークのゲートに車をぶつけたことをメディアがすっぱ抜き、反王室団体がテームズ・バレー警察に抗議した。
ゲートが損傷したにもかかわらず、警察がアンドルーを取り調べなかったからだ。2019年には故エディンバラ公フィリップ殿下が車の事故を起こし、2人が負傷したが、王立検察庁は起訴を見送った。
君主はまた、法廷に証拠を提出する義務も免除される。ダイアナ妃の宝石を盗んだ容疑で起訴された元執事の裁判で、検察側は故エリザベス2世に証拠提出を求めることを断念せざるを得なかった。
アンドルーの逮捕を受けて、チャールズは「今後は......全面的で公正かつ適正な手続きを踏んで捜査が進むだろう。これに対して......私たちは心からの支援と協力を惜しまない」との声明を出した。

それにしても前回、英王室のメンバーが逮捕されたのははるか昔、ピューリタン革命の時代のことだ。クロムウェル率いる議会派に敗れたチャールズ1世は反逆者として捕らえられ、1649年に処刑された。
アン王女をはじめ、スピード違反など車の運転に関連して処罰を受けた王室メンバーは何人かいるが、現代においては王家の血を引きながら逮捕された者はアンドルーが初めてだ。とはいえ、忘れてはならないのは、彼はもはや王室メンバーではないこと。
2025年10月、エプスタインとの関係がより細かく詮索されるようになった時期に、兄のチャールズ国王の決断で全ての称号を剝奪された。
古風な原則は通用せず
主権免責はまた、警察が犯罪捜査のために王家の私有地に許可なく立ち入ることを禁じている。これにより、理論的には王室メンバーは逮捕も起訴もされないことになる。
2017年に制定された「文化財(武力紛争)法」も、盗まれるか略奪された美術品を探すために警察が王家の私有地に入ることを禁じている。
2007年にイングランド東部サンドリンガムの保護区で保護鳥のハイイロチュウヒが2羽銃で撃たれた。ノーフォーク警察は管理当局に区域内に入る許可をもらわねばならず、その間に鳥の死骸は片付けられてしまった。警察はヘンリー王子に事情聴取をしたが立件はしなかった。
ほかにも同様の事案があり、サンドリンガムは「野生生物保護違反の温床」と言われるようになった。2003〜23年に少なくとも18件、野生生物保護違反の事案が報告されたが、起訴されたのは1件だけだ。
長年の法的な慣例には君主の面前もしくは王宮の敷地内では何人も逮捕されない、というものもある。この決まりでは国王以外の王室メンバーも王室に雇われた人々も免責特権を享受できることになる。
とはいえ、アンドルー元王子の逮捕劇を見る限り、古風な原則は今の時代には通用しないようだ。
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Francesca Jackson, PhD candidate, Lancaster Law School, Lancaster University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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