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荒川河畔の「原住民」(20)

「僕はホームレス」その長い髪とひげには「理由」と「秘密」がある...

2025年1月31日(金)14時40分
文・写真:趙海成
荒川河川敷のホームレス

長い髪とひげが特徴のホームレス、征一郎さん

<ぼさぼさの長い髪とひげが特徴の荒川河川敷のホームレス。その風貌はしばしば周囲の人から悪い誤解を招くが、ホームレス生活のためにはどうしても変えられない理由があった。在日中国人ジャーナリスト趙海成氏による連載ルポ第20話>

日本のホームレスには、2つのタイプがいる。周囲にホームレスだと思われるのを恐れている人と、どこに行ってもホームレスだということを明かす人だ。

征一郎さんは、典型的な後者だ。長くてボサボサの髪、口元を覆うひげ、そして赤い野球帽を深くまでかぶり、サイズの合わない古いコートを着て、古くさい自転車に乗っていた。

住宅地へアルミ缶を集めに行っても、廃品買取所にアルミ缶を売りに行っても、彼はなりふり構わず、この格好を貫いている。

ヤクザに会ったときも、彼は臆病ではなかった。

十数年前のある朝、征一郎さんは赤羽の一番街商店街に食べ物の残り物を拾いに行った。焼肉店、寿司店、ハンバーガー店などが前日の食品を捨ててあり、早朝になると、何人かのホームレスがゴミ捨て場にそれを拾いに行くわけだ。

すると、2人のヤクザがナイフと銃を持って喧嘩しようとしているところに出くわしたという。彼らの足元には、半分ほど吸ったタバコの吸い殻が捨てられていた。

征一郎さんがそれを拾い始めると、ヤクザの1人が大声で叫んだ。

「このホームレス! 何をしてるんだ? 早く立ち去れ!」

征一郎さんは、そのヤクザを見上げ、慌てずにこう言った。

「僕は毎日この時間に、焼肉とタバコの残りものを取りに来ているんだ。何が邪魔なんだ」

中国の故事に「小さなことのために頭を下げる」という意味の「为五斗米折腰(五斗米のために腰を折る)」という言葉がある。征一郎さんは社会のどん底に住んでいるが、だからといって些細な利益のために頭を下げることはしない。むしろ「私はホームレスだからこそ、誰も怖くない」という姿勢を見せているのだ。

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