最新記事
日韓関係

衰える日本の自動車産業...日韓接近を促した「世界最大の自動車輸出大国」中国の電気自動車

The China Factor

2023年6月6日(火)12時40分
コーリー・リー・ベル、エレナ・コリンソン、施訓鵬(シー・シュンポン)(いずれもシドニー工科大学・豪中関係研究所)
韓国の尹錫悦大統領と岸田文雄首相

首脳会談に先立ち、韓国人原爆犠牲者慰霊碑を訪れた韓国の尹錫悦大統領(左)と岸田文雄首相(5月21日、広島市) YUICHI YAMAZAKIーPOOLーREUTERS

<戦後最悪の関係から急速な改善へと日本と韓国を動かす中国ファクター>

主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)最終日の5月21日、日本の岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領が首脳会談を行った。3月の東京、5月初旬のソウルに続く、2カ月で3度目の会談だ。

日本の植民地支配などの歴史問題が大きなしこりとなり、日韓関係は長い間険しい時代が続いてきた。韓国社会と野党には今も根強い反日感情があるから、両国関係の「雪解け」が長続きする保証はない。

それでも、戦後最悪の日韓関係とも言われた文在寅(ムン・ジェイン)前大統領時代と比べれば、大きく改善したのは間違いない。その背景にあるのが、安全保障分野における日韓共通の危機感だ。とりわけ、北朝鮮の度重なるミサイル発射実験は、日韓両国にとって大きな脅威となっている。

日韓の接近には、中国の脅威も影響している。習近平(シー・チンピン)政権は国内では権威主義的な姿勢を強め、国外では日韓の海洋インフラがある海域で、攻撃的に振る舞うようになった。

日韓共に中国との関係は悪化しているが、最近は中韓関係の悪化が特に目立つ。尹が中国の台湾政策を批判したところ、中国外務省が定例会見で「口出しをするな」と反発したり、中国共産党系タブロイド紙が尹政権の日米への接近を批判したところ、北京の韓国大使館が抗議を申し入れたりといった具合だ。

しかし、日中韓の「三角関係」を考える上で、もう1つ重要な要素がある。貿易だ。日本も韓国も、中国との経済関係が大きく変化しており、今や中国はそれぞれの国の重要戦略産業にとって強力な競争相手となっている。

中国の脅威が、日韓の「古傷」をめぐる苦々しい感情を凌駕する大きさとなり、結果として日韓関係の改善を促したとも言えるわけだ。

かつては中国といえば、巨大市場と旺盛な消費意欲が、日韓の輸出産業に大きな恩恵をもたらしてくれる存在だった。だが今はその構図が変わってきた。それが最も目立つのは自動車産業、とりわけ急成長する電気自動車(EV)の分野だろう。

衰える日本の自動車産業

ここでは日本のほうが、大きな痛みを感じている。最近の統計では、中国は既に日本を追い抜き、世界最大の自動車輸出大国となっている。

日本の自動車メーカーは、中国市場でも苦戦している。中国では国産車のシェアが拡大しており、日本車の売り上げは急減しているのだ。2023年3月の日産自動車の中国における新車販売台数は前年比25%減、ホンダとトヨタ自動車も約19%減となった。

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NZ経済、第3四半期は前期比+1.1% プラス成長

ビジネス

中国リチウム価格1年半ぶり高値、採掘許可取り消しで

ビジネス

マイクロン、12-2月利益見通し予想大幅に上回る 

ワールド

「トランプ口座」に投資家ダリオ氏が寄付、ブラックロ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中