最新記事

東南アジア

マレーシア、フィリピンと南シナ海問題で対中強硬姿勢で一致 ミャンマー対応ではASEANに苦言

2023年3月3日(金)14時40分
大塚智彦

マレーシアは反軍政勢力招待も模索

またアンワル首相は「ASEANは現在一連の会議や首脳会議から軍政代表を排除することぐらいしか具体的対策を講じていない」と述べて、手をこまねいている状態の強硬派にも苦言を呈した。

マレーシアは2021年2月のミン・アウン・フライン国軍司令官によるクーデター直後から軍政に厳しい姿勢を表明し、ASEANの会議に軍政代表ではなく、民主主義復活を求めて抵抗を続けるアウン・サン・スー・チーが率いた民主政府や少数民族関係者などからなる「国民民主連盟(NLD)」の関係者を招請するべきだとの強硬策を提示した。さらに実際にマレーシアのサイフディン外相(当時)がNLD関係者と接触したこともあったという。

このNLD関係者のASEAN会議への参加というマレーシアの提案は融和派などの反発でコンセンサスを得ることができず現在に至るまで陽の目をみていない。

つまりASEANは軍政であれNLDであれ「ミャンマー代表」の不参加が続いており、当事者を欠いた場での対応協議が続いており、それが事態の膠着状態の一因となっているとの見方もある。

新しいアプローチ模索の動き

アンワル首相はマルコス大統領との会談でミャンマー問題について「危機打開のため新しいアプローチを模索するべきだ」と述べたとしているが、この「新しいアプローチ」が具体的になにを示しているのかは明らかになっていない。

インドネシアが現在進めている打開策は、2021年4月にミャンマー軍政のミン・アウン・フライン国軍司令官も参加したASEAN緊急首脳会議(インドネシア・ジャカルタで開催)で合意した議長声明「5項目の合意」に基づき、その履行を軍政に迫るというものだ。しかしこのうち「武力行使の即時停止」と「全関係者とASEAN特使の面会」に2項目に関して軍政が強硬に反対しており今日に至るまでなんら進展をみせていないのが現状だ。

マレーシアのサイフディン前外相はASEAN外相として初めて「5項目の合意」の破棄を含めた見直しを提案したこともある。このためアンワル首相の「新しいアプローチ」は、インドネシアがこだわる「5項目の合意」にはもはや依拠せずにミャンマーとの打開策を模索する方法を指している可能性もある。

アンワル首相はフィリピン大学での講演をフィリピン独立運動の英雄ホセ・リサールの言葉を引用して締めくくった。

「正義は文明的人間の最も大切な美徳である。正義は弱き者の間に不正義が蔓延する野蛮な国々を抑え込む」

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中