最新記事

天体観測

【解説】2月2日に最接近し「肉眼で見える」──二度と戻って来ない「緑のZTF彗星」の正体

A COSMIC GIFT OF GREAT PRICE

2023年2月1日(水)13時10分
フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)

230207p52_SSE_02.jpg

スミソニアン天体物理観測所の小惑星センター CENTER FOR ASTROPHYSICS/HARVARD & SMITHSONIAN

しかし結論を急ごうとは思わなかった。天文学の世界では、観測による発見は最初の一歩。それが彗星か小惑星か、あるいは未知なる天体かを特定するにはもっと多くのデータが必要となる。だから研究チームは取りあえず「小惑星ZTF0Nf7」と名付け、その位置と軌道をマサチューセッツ州ケンブリッジにある「小惑星センター」に報告した。

このセンターは、NASAの大型宇宙望遠鏡やアマチュア天文家による観測情報を1年に何万件も収集しており、1947年以来、これまでに約4000の彗星と125万の小惑星を特定している。

日本人天文家が重要な確認

小惑星センターは、寄せられた観測内容の詳細をウェブサイトに掲載する。それを見て、アマチュアを含む多くの天文学者が追跡観測に挑戦し、その結果をセンターに送ってくる。それらを総合し、分析するのがセンターの仕事だ。複数の観測データを基に、そうした彗星や小惑星がどこへ向かっているかを推定しなければならない。

今回の場合は、ある日本人アマチュア天文学者の報告が大きかった。その形状から判断すると、ZTF0Nf7は小惑星ではなく彗星だろうと、彼は指摘した。

一般に、小惑星は初めから太陽系の内部にいて、他の小惑星や大きな惑星とひしめき合っているが、彗星は違う。もっと孤独な天体だ。

この彗星は、おそらく数十億年前に誕生し、太陽からずっと離れた場所で穏やかに、長い楕円軌道を巡っていた。しかし、あるとき何かの邪魔が入った。つまり、何か別な天体の重力の影響を受けた。それで、この彗星は従来の軌道から外れ、太陽の重力に引きずられ、その方向に進むことになった。

太陽に近づいて熱せられると、彗星の表面の氷は蒸発し、ガスはイオン化して、その周囲には霧のようなものができ(「コマ」と呼ばれる)、ガスと塵の尾を引く(この彗星が緑色に見えるのは、炭素と窒素の分子がイオン化されているためだ)。

イタリアやブラジル、その他各国での観測も、この日本人の指摘を支持していた。それで小惑星センターも、この天体は小惑星ではないと結論付け、改めてZTF彗星(C/2022E3)と命名した。

この彗星の5万年という周期は、長いとも短いとも言える。ネアンデルタール人が生きていた頃から、この宇宙はほとんど変わっていない。この彗星がまた戻ってくるまでの5万年にも大した変化はあるまい。宇宙の年齢は140億歳で、地球で生命が誕生したのは37億年前。われらが太陽も50億年後には燃え尽きて、赤色巨星となって地球をのみ込むことになる。そう考えれば、5万年などは天空の時計の針の目盛りを1つ刻むくらいの短さだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米、競業他社への転職や競業企業設立を制限する労働契

ワールド

ロシア・ガスプロム、今年初のアジア向けLNGカーゴ

ワールド

豪CPI、第1四半期は予想以上に上昇 年内利下げの

ワールド

麻生自民副総裁、トランプ氏とNYで会談 中国の課題
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中