裁判所まである!中国の非合法「海外警察署」の実態を暴く

XI’S POLICE STATE–IN THE U.S.

2023年1月28日(土)16時20分
ディディ・キルステン・タトロウ(本誌米国版・国際問題担当)

帰国した弁護士は消息不明

「李の事件は異様だった。みんな怖がっている」と言うのは、ロサンゼルス在住で杭州出身の彫刻家・陳維明(チェン・ウエイミン)。

習近平を新型コロナウイルスに見立てた彫像を制作したせいで、彼自身も命を狙われたことがある。その像は何者かに火を放たれた。

米司法省は昨年3月、陳への嫌がらせを共謀した疑いで、中国政府の工作員とされる劉藩(リウ・ファン)とマシュー・ジブリスを起訴した。劉と中国にいるもう1人の男には、情報を引き出す目的で米連邦政府職員に賄賂を贈ろうとした容疑もある。FBIによると工作目的で310万ドルが香港から送金されていた。

作品を焼かれ、ドローンで監視され、車にGPS装置を仕掛けられた陳は、もう「どこにいても安心できない」と語る。

習政権が始動した2013年以降、中国の公安当局の国外活動は活発化している。

例えば「天網作戦」は、中国人民に対するオンライン詐欺や、その他の犯罪に手を染めていると疑われる国外在住中国人を標的にしている。「狐狩り作戦」は、国外に逃亡した汚職高官を帰国させ、裁くことが目的だ。中国側の発表では、既に数千人が「説得されて」帰国している。

「共産党は、標的とする人物に帰国を強制するために本人を脅したり、中国にいる家族を通じて間接的に圧力をかけたりしている」と語るのは、政治亡命の案件に詳しいロンドンの法律家ホアン・ホアだ。

ホアンは昨年、ある人権派弁護士がイギリスに亡命するのを助けようとした。だが家族や故郷の山東省済南市の警察から数カ月にわたって圧力をかけられ、彼はホアンの忠告を聞かずに帰国した。

「警察からはあらゆる面での好待遇を約束されていた」が、帰国した弁護士は消息を絶った。その後、ホアンも現地の警察から電話やメールで脅迫を受けたという。

イギリスの国内安全保障・テロ対策を統括するMI5(英国情報部5部)のケン・マッカラム長官は昨年11月、中国当局が在外中国人への圧力を強めていると警告した。

犯罪の容疑者だけでなく、共産党に公然と異議を唱える人々への露骨な脅しもある。習近平への権力集中が進めば進むほど、こうした脅迫はひどくなるとマッカラムは予測する。

アメリカでは、中国からの移住者が出身地別の商工会議所や「同郷会」を通じて、共産党と密接に連携しているケースがある。

本誌の調査によると、警察の窓口や中国で起きた事件を裁く代理法廷や、中国の地方政府との連絡窓口として、堂々と機能しているところもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国、米との協定で最悪回避 輸出企業の収益性になお

ビジネス

JFE、4─9月期の純利益は64.7%減 通期業績

ビジネス

米FRB、新資本規制案の策定に着手=ブルームバーグ

ビジネス

ANA、日本貨物航空の全株取得 中国当局が認可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザベス女王の「表情の違い」が大きな話題に
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 5
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 6
    ハムストリングスは「体重」を求めていた...神が「脚…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 10
    すでに日英は事実上の「同盟関係」にある...イギリス…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 6
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 7
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 8
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 9
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 10
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中