最新記事

日本社会

デリヘルで生計立て子供を私立の超難関校へ スーパーのパートも断られたシングルマザーに残された選択肢

2022年8月11日(木)13時45分
黒川祥子(ノンフィクション作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

「もう、子どもとほとんど接する時間がなくなって、やっぱり、3カ月ぐらい経ったら、子どもが保育所に行きたがらなくなりました。それで、夜の仕事を辞めて、昼間の仕事を探したんですが......」

資格もなければ、職歴もない。1歳の子どもを抱えたシングルマザーに、社会はあまりにも冷たかった。

「小さな子どもがいるっていうだけで、断られました。たとえば、スーパーのパートでさえ、断られるんです」

1人で幼子を抱え、頑張って生きている女性を、この社会は突き放すことしかできないのか。程度の差はあれ、"女性活躍社会"を謳う今でも、変わっていない現実だ。

昼間働けて生活が安定した「本番行為」

「昼間の仕事、探してんだけど、全然なくて、もう超やばいんだけど」

真希さんは、小学校以来の友人に愚痴を吐いた。ただ、それだけだったが、ここが人生の大きな転機となった。友人の口から、予想もしないことが語られた。

「実は私、吉原で働いていたことがあるんだ。別に勧めるわけじゃないけど、短時間でガッツリ稼げるし、保育園に出す証明書も会社名で作ってくれるし、子どもの病気で保育園からしょっちゅう電話がかかってきても、全然、大丈夫。普通の会社だと、それで、クビになったりするじゃん? もし、やるんだったら、紹介するよ」

真希さんは、この話に乗った。大きかったのは、昼間に働けることだ。この仕事に変えたことで朝9時から18時まで子どもを保育所に預け、自身は10時から16時まで働き、夜は子どもと一緒に過ごすという日々が始まった。おかげで、子どもには20時就寝という規則正しい生活サイクルを作ることができた。

実際、それはどんな仕事なのか。

「お店は"高級サウナ"と看板を出していますが、本番行為を行うところです。1人50分のコースが多かったと思います。昼間でもお客さんは来るので、週4日やって、トータルで月50万ぐらいになったと思います。お客さんが1人つけば1万円、1日に5人つけば5万円です。そこから雑費を3000円ぐらい引かれて、4万7000円をその日に手渡しでもらえます」

目に見えて子どもの状態が安定した

「息子は今も、私がアクセサリー販売の仕事をしていると思っています」

しかし、仕事とはいえ、本番行為をすることに抵抗がなかったとは言えないだろう。

「最初の頃は苦痛でしたし、嫌だなと思っていました。でも結局、嫌だなと思ったところで、他にはやれることもないので。じゃあ、どうやって生活していくのか。なので、嫌だなと思うことが、もう無意味だなと思うようになりました。嫌なお客はいますが、そこまで変なことをされたことはないし、お店が女性を守ってくれますから」

真希さんが夜、家にいるようになって、子どもの様子に変化が生じた。

「何よりよかったのは、目に見えて、子どもの状態が安定したことです。夜、ぐずって寝ないこともなくなったし、保育所に行くことを嫌がらないようになりました」

母子世帯の貧困率は5割を超え、シングルマザーは昼だけでなく、夜も働くなど、二重働きを余儀なくされることが多い。そうなると子どもは夜、1人で家にいることになる。それが子どもの成長にいかに不安定な影を落とすのかは、想像に難くない。

真希さんが優先したのは、子どもの心の安定だった。

このときから真希さんは、本番行為を行う"セックスワーカー"として生きている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア裁判所、JPモルガンとコメルツ銀の資産差し押

ワールド

プーチン大統領、通算5期目始動 西側との核協議に前

ビジネス

UBS、クレディS買収以来初の四半期黒字 自社株買

ビジネス

中国外貨準備、4月は予想以上に減少 金保有は増加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中