最新記事

ウクライナ戦争

2014年には良かったロシア軍の情報収集・通信が今回ひどい理由

2022年4月22日(金)16時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

戦争は情報収集・評価、シミュレーション、補給「ロジ」能力が命

ナマの戦争はコンピューター・ゲームといくつかの点で違う。弾に当たると痛いし、本当に死んでしまう――というのは当然として、まず敵の地理、地形、交通路など十分調べておかないと攻め込んでから立ち往生してしまう。

そして敵の持っている武器、兵員、士気なども調べておかないと、悪くするとこちらが全滅する。よく言う、「情報収集」とその分析=インテリジェンスが絶対必要。

2014年のクリミア併合では、後で言うようにロシア軍諜報部GRU〔ロシア連邦軍参謀本部情報総局。現在のロシア連邦の前身であるソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)から存続する秘密情報機関の一つ〕のインテリジェンスが良かったようだ。

これは、クリミアのセヴァストポリにロシア海軍が基地を租借しているし、ロシア系人口も多いから可能になった。しかも当時、ウクライナ軍はないも同然。ウクライナ語人口ですら、ロシアに支配されロシア並みの給与が出れば、収入が3倍ほどになるのを皆、知っていた。

「だからクリミアの住人はロシアへの併合を支持する」というのがGRUの事前秘密調査でわかっていたのだ。併合はほぼ流血なしに完了する。

しかしそのGRUは調子に乗って、東ウクライナ制圧、さらには南ウクライナ制圧まで突き進み、現地での抵抗を受けて道半ばで止まる。そのことはまた後でくわしく言うことにするとして、今回のロシア・ウクライナ戦争(宇露戦争)では、事前の情報収集・評価はもっとひどかった。

プーチンは秘密警察KGB〔ソ連の情報機関・秘密警察〕の出身。警察や軍隊は秘密体質が強い。敵に情報がもれると捜査や作戦に差し支えるから、部下に何のために何をするのか全容を言わない。ただ細かい具体的な任務ばかりを言いつけて、情報は自分が一手に独占する。

今回のウクライナ作戦がそうだった。大臣たちも、そのほとんどはこれを事前に知らなかったし、軍や情報機関の中堅幹部でもこれを知らなかった。

それでも、アメリカのバイデン政権は2021年の秋から、「ロシアはウクライナへの侵入を準備している」と騒いでいたのだが、これはまぐれだろうか?

全容を知らずに、通信体制も悪いのに、北方、東方二方面、南方の合わせて四方面に兵力を分散して侵入を開始する。これでは兵力が薄まってしまう。しかも国道を一列縦隊で整然と進軍するなど、侵入というよりは、既に破った相手を占領するための行動だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平へ12項目提案、欧州 現戦線維持で=

ワールド

トランプ氏、中国主席との会談実現しない可能性に言及

ワールド

ロの外交への意欲後退、トマホーク供与巡る決定欠如で

ビジネス

米テスラ、低価格EVで利益率低下も 7─9月期決算
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない「パイオニア精神」
  • 4
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    増える熟年離婚、「浮気や金銭トラブルが原因」では…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中