最新記事

香港デモ

隠れ家に逃走手段など 香港デモの若者たちを支える市民の輪

2019年11月29日(金)11時02分

抗議参加者に寝床を準備する市民。11月1日、香港で撮影(2019年 ロイター/Tyrone Siu)

朝、目を覚ましたマクさんのもとに、子供たちが驚いた表情で駆け込んできた。おもちゃの台所セットやブロック、電車や自動車の模型、ドラムセットが散乱する子ども部屋の真ん中にあるエアベッドで、見知らぬ男性が眠っていたからだ。

男は香港で続く反政府デモに参加していた21歳の若者だった。抗議活動にもっと加わっていたいという思いで仕事を辞めたが、家賃を払うだけの収入がなくなったため、法律関係の仕事に従事するマクさんが自宅に招き入れていたのだ。

この男性が誰なのか、なぜ家にいるのか、6歳の娘と3歳の息子から初めて問われたとき、マクさんは「この同じ街に困っている人がいて、私たちはその人たちの力になれるということだ」と答えた。

「何か私にも貢献できないか、と考えていた」と姓だけを明かしてくれたマクさんは言う。「抗議に参加している若い人たちが、十分にお金を持っていなかったり、住まいや休む場所にも困っていることが分かった。私たちにも、最低限それくらいは提供できる」。

摘発恐れ、匿名での支援

マクさんの例に見るように、抗議の最前線には立たないものの、抗議参加者を支援している香港市民はたくさんいる。抗議デモはほぼ無許可で、ますます暴力的になっているため、自ら参加する勇気はないとしても、運動に貢献したいとは思っているからだ。

ロイターは、抗議参加者を支援する市民10数人に取材したが、いずれも匿名を希望するか、断片的な個人情報しか明かしてくれなかった。混乱が続く5カ月以上にわたり、5000人以上の抗議参加者を逮捕してきた警察による捜査を恐れているためだ。

抗議集会後は道路が封鎖され、鉄道の駅も閉鎖を余儀なくされることが多いため、提供される支援は隠れ家から車への便乗まで多岐にわたっている。こうしたプロセスのなかで、エアビーアンドビーやウーバーの無料版のように機能しているわけだ。

単位面積当たりでみると世界でも最も高額な不動産が多い香港だが、カトリーナさんのように、過密状態の狭苦しい集合住宅で暮らす市民も少なくない。

教会で働く34歳のカトリーナさんが夫とブチ猫と暮らす住居は、リビングとダイニングとキッチンを兼ねる部屋が1室、ベッドルーム1室、それに小さなオフィスという構成だ。それでも7月以来、彼女は7人の抗議参加者を迎え入れてきた。

「素晴らしい環境ではないが、彼らが本当に隠れ家を必要としているなら、路上に居るよりはいい」とカトリーナさんは言い、複数の抗議参加者を泊めるときにリビングルームの仕切りに使うブルーシートを指さした。より多くのスペースを空けるため、彼女は食卓用の椅子6脚を処分し、特に緊張が高まった夜には4人の抗議参加者を匿ったという。

カトリーナさんとマクさんは、フェイスブック上のグループを経由して接触した若い抗議参加者に自宅スペースを提供しているが、このグループには90人近くが参加している。また、メッセージアプリ「テレグラム」上には、抗議参加者向けに法律面での支援、公共交通機関の利用カード、食糧引換券、防護服などを提供するグループが少なくとも2ダース以上存在し、参加者は数千人にも達している

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザの援助拠点・支援隊列ルートで計798人殺害、国

ワールド

米中外相が対面で初会談、「建設的」とルビオ氏 解決

ビジネス

独VW、中国合弁工場閉鎖へ 生産すでに停止=独紙

ビジネス

ECB、ディスインフレ傾向強まれば金融緩和継続を=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中