最新記事
犯罪

フィリピン麻薬戦争 防犯カメラが伝える捜査という名の残虐行為

2017年12月6日(水)17時46分
ロイター

ロイターは4台の防犯カメラすべてから映像を入手。それぞれが違う角度から現場を捉えているおり、警察による作戦の一部始終を示す、かけがえのない記録となった。今回の事件映像はすでにフィリピンの放送局GMAによって一部が放映されている。

今回の取り締まりを遂行した警察署のサンチアゴ・パスキュアル署長は、「作戦は適法なものだ」とロイターに回答。内部調査では署員が適切な執行手続に従っていたことが分かっており、丸腰の男性に対して警官が銃撃したいう目撃者の証言は「不正確で根拠がない」と断じた。

高まる不安

今回の事件発生の前日となる10月10日には、ドゥテルテ大統領が、麻薬撲滅作戦は、国家組織であるフィリピン麻薬取締庁に任せるよう警察に指示していた。

同大統領が警官に対して麻薬戦争の遂行をやめるよう公式に伝えたのはこれで2度目だ。1月後半には、警官が韓国人ビジネスマンを拉致、殺害したと報じられたことで、警察による作戦中止を発表。だが1カ月後には、麻薬が再び出回り始めたとして、それを撤回している。

「正確な説明責任に注意を向けることで、この麻薬取り締まり作戦・キャンペーンに秩序をもたらしたい」とドゥテルテ大統領は直近の通達で述べている。

警察による残虐行為に対する世論の批判が高まるなか、今回の発表は行われた。マニラの世論調査会社ソーシャル・ウェザーステーションズによる調査では、警察への不信や、その残酷な手法に対する不安が高まっていることを示している。フィリピン社会に強い影響力を持つカトリック教会も、こうした警察手法を批判している。

警官や自警団による殺害を撮影した防犯カメラ映像がオンラインで出回たことを受けて、大統領の血なまぐさい麻薬戦争に対する国民の不安は高まっている。8月には、17歳の男子学生キアン・ロイド・デロス・サントスさんの殺害映像が公開され、目撃者の証言を裏付けたことで暴動が発生した。

警察はこの時、サントスさんが発砲してきたため、正当防衛で撃ったと説明していたが、目撃者は、丸腰の少年をマニラ北部のゴミだらけの路地に連れ込んだ警官が、少年の頭部を撃ったと主張していた。

公開された映像には、少年の遺体が発見された場所に、警官2人が誰かを引き立てていく場面が映っていた。少年の葬列は、麻薬撲滅戦争に対する過去最大の抗議行動へと発展した。

今回19区の映像に映っていた警官は、報告書によれば、マニラ第2警察署の麻薬対策部門所属だという。映像にハッキリと映っている15人の警察官のうち、マスクを着用しているのは1人だけだ。

同報告書によれば、ロランド・カンポさん(60)から麻薬を買った覆面捜査官が、応援を求める合図を出したところ、カンポさんが「(警官の)気配を察し」、仲間のシャーウィン・バイタスさん(34)とロニー・セルビトさん(18)に銃を抜いて撃つよう命じた、とある。

警察は反撃し、3人が「致命傷を受けた」というのがその内容だ。

だが映像を見ると、カンポさんは警察が到着する数分前に近所の人々と談笑しており、報告書にあるように覆面捜査官に麻薬を売っている様子はない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人口学者...経済への影響は「制裁よりも深刻」
  • 4
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 5
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中