最新記事

シリア情勢

シリアでも混乱を助長するだけだったサウジアラビアの中東政策

2017年11月28日(火)19時44分
青山弘之(東京外国語大学教授)

サウジアラビア は、「リヤド2会合」と称されるシリア反体制派の全体会合を主催した(11月22〜23日)Faisal Al Nasser- REUTERS

<シリア内戦でも、11月初めのレバノンのハリーリー首相辞任騒動でも、サウジアラビアの中東政策は、体面を保ち混乱を助長することはあっても、その正常化や安定化に積極的に貢献しているようには見えない>

シリア内戦が「政治的解決」を迎えようとしている。後押ししているのは言うまでもなくロシアだ。そのロシアが、トルコやイランとともに、シリア政府と反体制派の和解を目的とした「シリア諸国民大会」(シリア国民対話会合)の開催に向けて邁進するなか、「負け組」になることを避けようと、対応に腐心しているのがサウジアラビアである。

反体制派を支援したサウジアラビア

サウジアラビアは、米国、西欧諸国、トルコ、カタールとともに「シリアの友」を自称し、バッシャール・アサド政権の打倒をめざしてきた。同国はシリアに「アラブの春」が波及した直後の2011年秋、アラブ連盟におけるシリアの加盟資格停止や経済制裁発動を主導し、反体制派を支援した。サウジアラビアから供与された武器弾薬や資金は、イスラーム軍やイスラーム戦線といった武装集団だけでなく、アル=カーイダ系のシャーム解放委員会(旧シャームの民のヌスラ戦線)、シャーム自由人イスラーム運動、さらにはイスラーム国の手に渡った。また、シャーム解放委員会の幹部の一人アブドゥッラー・ムハイスィニーら多くのサウジアラビア人過激派が、シリアでの武装闘争やテロを繰り返した。

2015年1月に国王に即位したサルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズは、トルコとの連携を強め、アル=カーイダ系組織を含む武装集団を糾合しようとした。こうしたなかで結成されたファトフ軍は、同年3月にイドリブ県のほぼ全域を制圧し、またアレッポ・ファトフ軍やアレッポ軍といった武装連合体は、アレッポ市東部地区やアレッポ県西部でシリア軍に激しく抵抗した。

その一方で、サウジアラビアは、和平に向けた国連主催のジュネーブ会議に参加する反体制派の統合に尽力した。2015年12月、シリア国民連合、民主的変革諸勢力国民調整委員会、イスラーム軍、シャーム自由人イスラーム運動(その後脱会)などを首都リヤドに招待し、ジュネーブ会議への反体制派代表団の派遣とその人選を目的とする最高交渉委員会を結成させた。この組織は、ジュネーブ会議に参加するもっとも主要な反体制派とみなされ、2017年2月のジュネーブ会議(ジュネーブ4会議)以降はリヤド・プラットフォームの名で知られることになった。

ロシアの空爆でシリア政府の優位が決定的に

ところで、政治的解決、すなわちシリア人どうしの対話を通じた政治移行は、シリア内戦のほぼすべての当事者から支持されてきた。それは、2012年6月にジュネーブ会議(ジュネーブ1会議)を起点とし、2015年12月に採択された国連安保理決議第2254号によって具体的な内容を与えられた。

その骨子は、(1)反体制派をテロ組織と「合法的な反体制派」に峻別し、「テロとの戦い」によって前者を根絶する、(2)「合法的な反体制派」とシリア政府を停戦させ、両者の総意のもと、移行期政府を樹立し、シリア将来像を確定する、(3)包囲下にある反体制派支配地域に人道支援を行う、(4)米国とロシアを共同議長国とするISSG(国際シリア支援グループ)がこれらを後援する、という4点に要約できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

LSEG、第1四半期収益は予想上回る 市場部門が好

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中