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アメリカ献体市場レポート 売られた部位が語るドナーの悲劇

2017年11月10日(金)12時30分


頸椎を注文

2016年8月29日、ロイターのブライアン・グロウ記者はメールで、リストア・ライフのバード社長に問い合わせた。当時、ロイターはコディ・ソーンダースさんについて全く知らなかった。

問い合わせには、記者は実名とトムソン・ロイターのメールアドレスを使用した。

「非移植用の組織に関する研究プロジェクトのため、頸椎1個を欲しいのですが、送料を含む価格を教えてください」と、記者はメールで問い合わせた。「非移植用の組織」とは、生きている人間に移植できない頭部や脊椎など体の一部を指す。

記者が送ったメールには、ミネソタ州ミネアポリスの送付先が記されていた。ミネソタ大学メディカルスクールの研究施設から数キロの場所にある住所である。

バード社長は約1時間後、「ご連絡ありがとうございます。過去にご注文いただいたことはありませんね。私どもをどのようにお知りになりましたか」と返信。

それに対し記者は「ある業界関係筋から聞きました」と答えた。

バード社長は、椎骨と組織を含む頸椎全体が欲しいかと尋ねた。そうだと答えると、価格は300ドルで、送料が別途150ドルだと述べ、24歳の男性のものだとするレントゲン写真をメールに添付してきた。3日後、記者は注文した。

息子の運命

コディさんの両親、リチャードさんとアンジーさんのソーンダース夫妻は、コディさんを近くの墓地で親族が眠るそばに埋葬したかったと話す。だが、文字を読むにも苦労するリチャードさんの月収は、わずか900ドル程度。長いあいだ不安障害に苦しむアンジーさんは、働くことも運転することもできない。埋葬の費用はただひたすら高すぎた。

友人たちが、通常は少なくとも695ドルする火葬費用を出すと申し出てくれた。しかし夫妻は知り合いから施しを受けることに気がとがめた。そこで、リストア・ライフにコディさんの遺体を提供することにした。同社が無料で火葬してくれることを、当時はありがたいと思っていた、とリチャードさんは言う。

献体してから数週間後、リストア・ライフから男がコディさんの遺灰の入った骨つぼを届けに来た。アンジーさんは男の名前は思い出せないが、親切だったと話す。

「とても感じが良く、思いやりがあった」

ボディーブローカー業界の慣例に倣い、リストア・ライフはロイターのグロウ記者に売った遺体の一部を提供したドナーの名前は明かさなかった。教えたのは、年齢と死亡月日だけだ。

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