最新記事

映画

人類の終わりを告げる鮮やかな『猿の惑星』最終章

2017年10月12日(木)18時40分
デーナ・スティーブンズ

シーザーたちは共存を求めたが人間の攻撃によって最後の戦いに立ち上がる (c)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

<『猿の惑星』の新3部作を締めくくる『聖戦記』は最高の出来栄え。人類の存在意義を痛烈に問い掛ける>

悲しいかな、人類の文明社会は終えんに向かっているようだ。現実にも、映画の世界でも。かつての大ヒット作『猿の惑星』の新3部作を締めくくる『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』では、人類が自己破壊の道の終点まで突っ走る。

終末が近いのは本作が始まる前から明らかだった。14年公開の前作『猿の惑星:新世紀(ライジング)』で、「猿インフルエンザ」によって人間は絶滅の危機に瀕する一方、高い知能を身に付けた猿には第2世代が生まれており、人類を滅亡させる脅威となっていたからだ。

愚かにも、人類は猿との平和的共存を模索せず、全面戦争を選択した。インフルエンザを生き延びた一部の人間はワクチン開発に取り組み、猿との共存を図るが、カリスマ性のある狂信的な男が部隊を率いて平和に暮らす猿たちを襲撃。収容所に押し込めて水や食事もろくに与えず、働かせ、虐待する。これは未来の寓話ではなく、かつて実際に起きたことだと誰もが思うだろう。

新3部作の第1作『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』の公開は11年。以来、このスリリングで奥の深いシリーズを見続けてきた観客は、主人公が気高い指導者であることに気付いている。類人猿の中で最も知能が発達したチンパンジーのシーザーだ(演じるのはモーションキャプチャーでCGキャラクターになり切る役者の第一人者で、『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラム役でも有名なアンディ・サーキス)。

シーザーの献身と教育のおかげで、猿たちは仕草も交えた人間並みの会話能力や、複雑な社会組織を手に入れる。しかしシーザーは『新世紀』で賢明さとストイックさを失い、高慢さと復讐心が頭をもたげてトラブルを招く。『創世記』では猿と人間のはざまでアイデンティティーに苦悩する指導者だったが、ついにシェークスピア劇さながらの清濁併せのむ王に変身した。

新しいヒーロー像の誕生

本作でのシーザーは毛に白いものが交じる円熟した家父長だ。彼が率いるコミュニティーは人間からの脅威を受けつつも第1作からの「猿、一緒、強い」という理念の下に暮らしている。しかし人間の手先となり、人間のために働き、収容所の看守となる猿もいる。

人間の激しい攻撃によって平和な集落が大きな被害を受け、猿たちは安全な場所に移ることにする。しかしシーザーとその仲間は出発直後に集団から離れ、兵士たちを率いる残忍な人間のリーダーを追跡する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国新築住宅価格、8月も下落続く 追加政策支援に期

ワールド

北朝鮮、核兵器と通常兵力を同時に推進 金総書記が党

ビジネス

中国8月指標、鉱工業生産・小売売上高が減速 予想も

ワールド

UBS、資本規制対応で米国移転検討 トランプ政権と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中