最新記事

中国

中国、不戦勝か――米「パリ協定」離脱で

2017年6月5日(月)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

イタリアで終わったばかりのG7首脳会談においてトランプ大統領との間に溝が生まれたメルケル首相は、「中国とのパートナーシップを強化していくことこそが、われわれの責任だ」として、李克強首相に応じた。それはまるで「アメリカの時代が終わり、中国の時代が始まる」ような印象を与えた。

その後、ドイツのシュタインマイヤー大統領とベルリンで会談した李克強首相は「世界の政治・経済情勢は不確定要因、不安定化要因が増加している」とした上で、「中独の多国間主義の維持自体が、世界に対する安定のメッセージとなった」と述べた。また、気候変動対策に対する中国の立場を伝え、「ドイツが議長国となる今年のG20ハンブルグサミットを成功させよう」と、すでにG20首脳会談における中国のリーダーシップの唾付けをした格好だ。

李克強首相の訪独をこの時期に合わせたのは、来月開催されるG20首脳会談のためという中国の計算だったが、思いもかけず、トランプ大統領が中国に絶好のタイミングにおけるプレゼントをする結果となった。

中国はここでも不戦勝を勝ち取っている。

李克強首相、EUで首脳会談

その足で李克強首相は現地時間6月1日夜、第19回中国・EU首脳会合出席とベルギー公式訪問のため、ブリュッセルに到着した。ブリュッセルではトゥスク欧州理事会議長(EU大統領)、ユンケル欧州委員長と首脳会談を行ない、エグモント宮殿で開催された中国EUビジネスサミットで講演した。

中国は2030年までに2005年比で二酸化炭素排出量を60~65%削減する目標を立てており、来る日も来る日も「クリーンエネルギー」産業へのイノベーションを叫んでいる。一帯一路沿線国での巨大太陽光パネルや風力発電などの映像がCCTVの画面に出て来ない日はないくらいだ。

事実、米研究機関IEEFA(エネルギー経済財務分析研究所)やBNEF(Bloomberg New Energy Finance、ブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンス)などのデータによれば、2016年の太陽光・風力・水力などを利用した再生可能エネルギーへの投資は、中国が世界一で、アメリカを遥かに抜いている。外交部コメント(内在的要求)にもあるように、自国の大気汚染問題というせっぱ詰まった要因が大きいだろうが、それにしても、中国の海外投資額は前年比の60%増だ。2017年1月ー3月期の世界のクリーンエネルギー投資額では、「中国:179億ドル、アメリカ:94億ドル(日本:41億ドル)」となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピン、南シナ海巡る合意否定 「中国のプロパガ

ビジネス

中国、日本の輸出規制案は通常貿易に悪影響 「企業の

ビジネス

中国不動産株が急伸、党中央政治局が政策緩和討議との

ビジネス

豪BHP、英アングロへの買収提案の改善検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中