最新記事

イスラエル

トランプのエルサレム訪問に恐れおののくイスラエル

2017年5月18日(木)21時30分
マーク・シュルマン(歴史家、ヒストリーセントラル・ドットコム編集長)

聖地エルサレムの「嘆きの壁」に祈るイスラエルのユダヤ教徒と国境警備隊兵士 Baz Ratner-REUTERS

<機密漏洩でイスラエルのスパイを危険にさらした上、来週、パレスチナと帰属を争う聖地エルサレムを訪問するというトランプに、かつて大いなる期待を抱いていた右派も左派も恐怖を感じ始めた>

テルアビブは今、重い空気に包まれている。イスラエルのスパイの命が危険にさらされているかもしれないのだ。

なぜか? ドナルド・トランプ米大統領が先週の水曜、テロ組織ISIS(自称イスラム国)のテロ計画に関する機密情報をロシアの外相らに漏らしたからだ。複数の関係者の話から、それらの情報はイスラエルがアメリカに提供したもので、極めて機密性が高く、第三国の情報機関と共有してはならない内容だった。情報を入手したスパイの身元が割れ、危害が及ぶ恐れがあるからだ。それをトランプは、わざわざ自分のツイッターでまで「大統領には知らせる権利がある」と強弁した。

イスラエル情報機関の元職員は怒っている。情報機関のトップを除けば、トランプが漏らした機密情報を提供した人物が地元の住民なのか、イスラエルから派遣されたスパイなのかは誰も知らない。ただ皆が、そのスパイが無事に潜入先から脱出してほしいと願っている。

オバマ前政権も警告

トランプが国家機密でさえ軽率に扱うことは、イスラエルにとって実は驚きではない。イスラエルの日刊紙イディオト・アハロノトは今年1月、バラク・オバマ米前政権がイスラエルの情報機関に対してトランプ政権と情報を共有し過ぎないよう忠告していたことを報じた。情報がロシア政府に筒抜けになる恐れがあるからだった。イスラエル政府は今になって、その警告に従わなかったことを後悔するはめになった。

【参考記事】大統領最後の日、オバマはパレスチナに2億ドルを贈った

イスラエル政府は表向きは、平静を装っている。イスラエル・カッツ情報相は、「我が国はアメリカの情報機関に全幅の信頼を置いている。イランやISISなどの脅威について、今後も2国間の協力を継続し深化させる」と言った。アビグドル・リーベルマン国防相も、似たような声明を出した。しかしいずれも、トランプには言及しなかった。

2日前までは、イスラエルでは左派であれ右派であれ、トランプが自分たちの救世主になると考えていた。右派は、トランプがイスラエルとパレスチナの「2国家共存」案を破棄するものと信じていた。一方の左派は、トランプがついに和平を実現してくれると期待していた。だが今、そんな希望は打ち砕かれた。

【参考記事】自分が大統領にならなければイスラエルは破壊される──トランプ

右派は先週、和平合意に本腰を入れるかのような言動を繰り返すトランプを見て見ないふりをした。在イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移転するなど、昨年の米大統領選で掲げた強硬な公約を、トランプが実行してくれると信じたかったからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米総合PMI、12月は半年ぶりの低水準 新規受注が

ワールド

バンス副大統領、激戦州で政策アピール 中間選挙控え

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中