最新記事

安全保障

日本にミサイル攻撃能力の強化は必要か

2017年5月16日(火)09時30分
ジェームズ・ショフ(カーネギー国際平和財団シニアフェロー)、デービッド・ソン(同シニアフェロー)

米海軍の駆逐艦から発射された巡航ミサイルトマホーク Jaret Morris-U.S. NAVY

<北朝鮮がミサイル実験を繰り返すなかで先制攻撃論も飛び出したが、日米同盟にとってのコストパフォーマンスを考えるべきだ>

今年に入って北朝鮮が弾道ミサイル発射実験を次々と行うなか、日米両国は高まる脅威への対応を迫られている。

自民党の衆議院議員で防衛相も務めた小野寺五典も、そう考える1人だ。小野寺は今月ワシントンで開かれたシンポジウムの席上、自衛隊による敵基地への攻撃能力とミサイル攻撃に反撃する能力を高めるべきだと、党内で提言したと語った。

これが実現すれば、戦後の平和憲法の再解釈と改正を目指す安倍晋三首相にとって大きな前進となるだけでなく、北朝鮮に圧力をかける新たな手段を模索しているアメリカ政府にとっても願ったりかなったりだ。

しかし日本政府にとって、ミサイル攻撃能力を高め、それに伴うインフラを整備することは、政治的・財政的に大きな代償を払うことになりかねない。そんな選択肢を、わざわざ取る価値があるだろうか。

日米の政策決定者がまず念頭に置くべきなのは、日本が長距離ミサイル攻撃能力を獲得したからといって、北朝鮮の攻撃を完全に回避できる特効薬にはならないということだ。それでも日本がこの能力を手にした場合、日米安保体制という大きな枠組みの中では有利になり得る。そうなると、問題は北朝鮮情勢にとどまらず、アジア太平洋地域の安全保障での日本の役割というもっと大きな議論の一部として見直すべきだろう。

日米同盟では以前から、アメリカは「矛」で、日本は「盾」の役割を担ってきた。だが北朝鮮の核の脅威により、日本側はこの役割分担の見直しを迫られている。

50年代以降、日本の政治家や官僚の中には、自衛のためにほかに手段がなければ敵基地への先制的な攻撃は合憲とする見方がある。これに従えば、今や弾道ミサイル防衛(BMD)という「盾」の手段がある日本は、他国から攻撃されるまで手を出せないことになる。

【参考記事】習近平の顔に泥!--北朝鮮ミサイル、どの国への挑戦なのか?

戦略的メリットはあるか

そのため日本は、BMDと日米同盟の強化に巨額の予算をつぎ込んできた。ところが最近、北朝鮮のミサイル技術が日本のBMD能力をしのぐ可能性が出てきた。日本側からは「矛」による強固な抑止力が必要だとする声が出ている。

日本が何らかの攻撃能力を手にすれば、その意味は日本に対するピンポイント攻撃を防ぐ能力の向上というより、むしろさらに広範な有事における日米の安保協力の強化のためということになる。日本が攻撃能力を高めれば、安保体制はより強固になり、それによって日米両国の国力と技術の相乗効果が期待できる。北朝鮮の脅威に対処することが第1の目的になるだろうが、東シナ海における抑止力強化にもつながるはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

戦場の成果、米との和平協議に「前向きな影響」=ロシ

ビジネス

ユーロ圏のインフレ、今後数カ月は2%前後で推移=ラ

ビジネス

中国人民銀、一部銀行の債券投資調査 利益やリスクに

ワールド

香港大規模火災、死者159人・不明31人 修繕住宅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 5
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 6
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中