最新記事

トランプ外交

トランプ、オバマが嫌ったエジプト大統領に「素晴らしい仕事」

2017年4月4日(火)15時44分
マシュー・クーパー

エジプトのシシ大統領(左)と固い握手を交わすトランプ Kevin Lamarque-REUTERS

<トランプがホワイトハウスでエジプトの独裁者シシとほほ笑んでいる。オバマ政権ならあり得なかったことだ>

ドナルド・トランプ米大統領は3日、エジプトのアブデル・ファタハ・アル・シシ大統領をワシントンのホワイトハウスに招き、人権抑圧や政治弾圧で悪名高い軍事独裁者に「素晴らしい仕事をした」と賛辞を贈った。バラク・オバマ前政権時代にはありえなかったことだ。

オバマはシシがホワイトハウスに来ることさえ許さなかったため、シシにとってはこれが初の訪問になる。トランプはそんなシシを歓迎し、大統領執務室で二度も固い握手をかわした。先月訪れたNATO同盟国、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とは、記者団に促されても握手をしなかったのとは対照的だ。

【参考記事】独裁エジプトに再度の市民蜂起が迫る

トランプは、「シシ大統領は難局に素晴らしい働きをした。我々はエジプトとエジプト国民を強く支持していることを皆に知らせたい」と述べた。

エジプトでは2011年、「アラブの春」に触発された反政府デモがムバラク長期独裁政権を倒し、イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」出身のムハンマド・ムルシが大統領に選出された。シシは2013年、軍事クーデターでそのムルシを更迭して実権を握り、ムルシの支持者を弾圧した。当時のオバマ政権はクーデター後も海外援助や軍事援助は続けたものの、シシの権威を高めることになるホワイトハウスでの会談は行わなかった。

【参考記事】エジプト:祭りの後、でもまたいつでも祭りは起きる
【参考記事】軍の弾圧でムスリム同胞団は大ピンチ

トランプとシシは、テロ対策で協力していく考えを強調。シシはトランプを「強い指導者」と称賛し、「テロに立ち向かうために常に米国と協力する」と述べた。またパレスチナ紛争を「世紀の問題」と呼び、和平に向けて協力していくことを誓った。トランプは、数十年続くこの紛争に決着をつけるべく娘婿のジャレッド・クシュナーを大統領上級顧問に任じた。エジプトは1979年にイスラエルとの間に親米的なイスラエル・エジプト条約を締結、維持している。

シシとの親しさをアピール

オバマは8年前、エジプトの首都カイロで行った有名な演説で、イスラム世界の数十億人のイスラム教徒に直接語りかけた。この劇的な舞台で、オバマはアメリカとイスラムが無縁ではないことやオバマが母と幼少期を過ごしたインドネシアについて語り、歴史的な不和を克服して新しい関係を構築すると宣言した。

一方、一部のイスラム教徒にアメリカへの入国を一時禁止する大統領命令を出したトランプにはそのような訴えもなく、代わりにシシとの親しさや、会談が予定時間を大幅にオーバーしたことなど、良好な関係をアピールした。

シシとトランプは、対テロ戦争の他、通商や経済援助について話し合った。レックス・ティラーソン米国務長官との会談も予定している。共同記者会見の予定はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドルが急落、156円後半から154円後半まで約2円

ビジネス

為替、基調的物価に無視できない影響なら政策の判断材

ビジネス

訂正野村HD、1―3月期純利益は前年比7.7倍 全

ビジネス

村田製の今期4割の営業増益予想、電池事業で前年に5
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中