情で繋がり、情でつまずく保守の世界~森友学園以外にも繰り返されてきた保守の寄付手法~

2017年3月24日(金)19時20分
古谷経衡(文筆家)

同映画の製作母体は、2004年に誕生したばかりの独立系保守CS放送局の日本文化チャンネル桜(のちに株式会社チャンネル桜エンタテインメントに引き継ぎ)。しかし自己資金に乏しかったので、同映画の製作費の大半を外部からの寄付に頼ることになり、「保守界隈で著名な言論人や文化人を理事や広告塔として起用し、それを「梃子」として多額の寄付金を集める」手法を展開した。

映画『南京の真実』への賛同人として公式サイトに掲載され、あるいは同ホテルで応援演説ならぬ決起集会にて激しく賛同の意を示したのは、以下に一部列挙する通りのこれまた保守界隈のそうそうたる面々であった。

石原慎太郎(東京都知事)、渡部昇一(上智大学教授)、稲田朋美(衆議院議員)、平沼赳夫(衆議院議員)、西村眞悟(衆議院議員)、櫻井よしこ(ジャーナリスト)、高橋史朗(明星大学教授)、井尻千男(拓殖大学日本文化研究所所長)、椛島有三(日本会議事務総長)、田久保忠衛(杏林大学客員教授)、田中英道(東北大学名誉教授)、中西輝政(京都大学大学院教授)、藤井厳喜(拓殖大学客員教授)、藤岡信勝(拓殖大学教授)、古庄幸一(元海上幕僚長)、水間政憲(ジャーナリスト)...etc(肩書はいずれも当時)

まさに「保守言論人・文化人総動員」ともいうべき煌びやかな肩書を持つ賛同人の数々だ。この甲斐あってか、映画『南京の真実』には当初予想を大幅に上回る約3億5000万円以上(2017年1月時点)が集まり、記者発表からちょうど1年後の2008年1月に映画『南京の真実』は無事に公開され、支援者や好事家から一定の評価を得た。しかしながらこの『南京の真実』の構想は、記者発表時点で「三部作」と明示されており、2008年1月公開のものは第一部に過ぎなかった。

「三部作」のはずが一部しか完成せず...

では残りの第二部、第三部はどうなるのか。実は第一部の公開から約9年を経た現在でも、当初公約された「三部作」の完全製作は行われていないのである。これには一部の支援者からも相当の不満の声が上ったことは言うまでもない。ところが2017年になって、唐突に「第三部」の製作発表が行われ、東京・渋谷区のユーロスペースで試写が行われたが、肝心の公約たる「第二部」の公開は9年を経てもなお実現していない。

「保守界隈で著名な言論人や文化人を理事や広告塔として起用し、それを「梃子」として多額の寄付金を集める」手法を展開し、その条件として「三部作」の製作を確約しながら、9年を経てもなお半分強(2/3)しか約束を果たしえないのは、寄付者からの批判を受けても致しかたない事例であろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラに2.43億ドルの賠償命令、死傷事故で連邦陪

ビジネス

バークシャー、第2四半期は減益 クラフト株で37.

ビジネス

クグラーFRB理事が退任、8日付 トランプ氏歓迎

ビジネス

アングル:米企業のCEO交代加速、業績不振や問題行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マイクロプラスチックを血中から取り除くことは可能なのか?
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 6
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 9
    ハムストリングスは「体重」を求めていた...神が「脚…
  • 10
    スーパーマンが「明るいヒーロー像」を引っ提げて帰…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中