最新記事

台湾

蔡英文新総統はどう出るか?――米中の圧力と台湾の民意

2016年5月17日(火)17時39分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

5月20日に台湾新総統に就任する蔡英文 Tyrone Siu-REUTERS

 5月20日には蔡英文氏が総統就任演説をする。一つの中国を謳う九二コンセンサスを認めるかが注目されている。中国大陸からの凄まじい圧力だけでなく米国からの警告も受けた。民意に従うとする蔡英文氏。では台湾民意は?

中国大陸からの圧力

「一つの中国」論を絶対に譲らない中国(中国大陸)は、1992年に合意された「九二共識(コンセンサス)」を台湾政権に激しく要求している。民進党の蔡英文は独立傾向が強く、もしも新政権が台湾独立を叫べば、中国政府はただちに反国家分裂法が火を噴くという構えだ。

 そのため、台湾を訪問する大陸旅客数を制限したり、ガンビアと国交を結ぶなど、徐々に蔡英文氏を追い詰めている。

 観光客数と貿易額で相手国を落していくのは、中国の常套手段だ。

 香港が1997年に中国に返還された際、「一国二制度」を誓ったにもかかわらず、「一国」を重視して「二制度」を付け足し程度に持って行こうとする中国大陸に対して香港市民は激しく抵抗し、民主化を叫んで何度もデモを起こしてきた。その香港の富裕層を一気に大陸側に引き寄せたのは「観光客戦略」だった。2003年のことだ。

 その結果、2014年データでは、700万人強の香港市民数に対して、大陸から年間4700万人の観光客がやってくるようになり、香港経済をほぼ独占してしまう。爆買いの対象の中には住宅もあって住宅価格が高騰し、ついに2014年の雨傘革命を招くに至ったくらいである。

 台湾に行く大陸の観光客は418万人だと大陸側は発表しており香港ほどではないが、それでも経済的痛手はあるだろう。

 一方、ガンビアは1974年に中国と国交を結んでいたが、1995年には台湾とも「中華民国」として外交関係を結んだため、中国はガンビアとの国交を断絶していた。しかし中国大陸との貿易額の急増により、2013年11月にガンビアは台湾と国交を断絶。そして2016年3月17日、遂に中国と国交を回復したのである。もちろん「一つの中国」を大前提としたものだ。これが5月20日に誕生する蔡英文新政権に対する圧力であることは、誰の目にも明らかだろう。

 その証拠に3月19日の「環球時報」(中国共産党機関紙「人民日報」姉妹紙)は、「蔡英文――外交孤児時代来たる」というタイトルの記事を報じている。台湾は現在のところ、グアテマラ、パナマ、ニカラグアなど22カ国と国交を結んでいるが、それもやがて一つ一つ離脱していくだろうと警告している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ベライゾン、過去最大の1.5万人削減へ 新CEOの

ビジネス

FRB、慎重な対応必要 利下げ余地限定的=セントル

ビジネス

今年のドル安「懸念せず」、公正価値に整合=米クリー

ワールド

パキスタン、自爆事件にアフガン関与と非難 「タリバ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中