最新記事

台湾

蔡英文新総統はどう出るか?――米中の圧力と台湾の民意

2016年5月17日(火)17時39分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 なぜなら、これらの国は「台湾政権が大陸政権と仲良くしているからこそ、台湾との国交を保っていられるのであって、もし台湾新政権が独立を主張し中国大陸政府と対立するようなことがあったら、ただちに大陸政権を選び、台湾とは断交するだろうから」というのが環球時報、すなわち中国政府の見解なのだ。

 また、今年5月初旬、WHO(世界保健機関)のWHA(年次総会)への台湾参加に関しても、中国大陸国務院台湾事務弁公室(国台弁)の報道官が、「これはあくまでも『一つの中国』原則のもとでの中国大陸の取り計らいである」と述べた。

 それに対して台湾の行政院大陸委員会は抗議し、5月7日、「我々は2009年以来、7年連続で円滑にオブザーバーとしてWHAに参加してきた」とした上で、「九二コンセンサスは『1つの中国』を各自表明することを基本としており、我が政府が主張する『1つの中国』は中華民国のみを指すのであり、我が方は、大陸側が主張する『1つの中国原則』についてもこれまで認めたことはない」という趣旨の声明を出した。

 馬英九政権最後のメッセージとしては、すさまじい、おそらく初めての強烈な抵抗であったと言えよう。馬英九政権は、5月20日の蔡英文新政権への譲渡のために、5月12日に内閣総辞職をしている。

 中国の中央テレビ局CCTVは5月17日、台湾は2009年12月に「中国」という肩書で気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)に参加できたことを挙げ、「それは誰のお蔭だったのか」と解説し、「一つの中国」、「九二コンセンサス」を認めてこそ、そういった恩恵を大陸側は台湾に与えるのだ、とした。

アメリカが台湾へ「一つの中国」を警告

 蔡英文氏の総統就任演説を目前にした5月15日(アメリカ時間)、アメリカの国防総省が「2016年中国大陸軍力報告書」を発行し、その中で「一つの中国政策」と「台湾独立を支持しない」ことを表明したという。台湾の『中央日報』が5月16日に報じた。

 これは2007年に表明して以来9年ぶりのことで、明らかに蔡英文新総統に対する警告と言える。2007年の警告は、2008年に馬英九が総統に当選するときの総統選挙に当たって発した警告であった。

 もし台湾が独立を主張して大陸との間に戦争でも起これば、アメリカは立場上、非常に困る。台湾側を支援したいが、中国との間には「一つの中国」を前提とした国交があるし、米中が戦争になることなどは絶対に避けたい。それは中国も同じだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中