最新記事

米中関係

トランプが大統領でもアジアを手放せないアメリカ

米大統領選であらわになる根強い内向き志向。日本はアメリカとアジアの共生の足掛かりとなれるか

2016年5月10日(火)16時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

トランプが躍進するなど内向き志向を強めるアメリカの行方は Brendan Mcdermid-REUTERS

 米大統領選の予備選たけなわ。民主党のクリントン前国務長官と共和党のドナルド・トランプが優勢だ。クリントンは中国とロシアに警戒心が強く、アジア重視。トランプは「アメリカ第一」のようだ。

 誰が大統領になろうと、アジアを突き放すわけにはいかない。アメリカにとり、掛け値なしに重要な地域になっているからだ。

【参考記事】トランプ外交のアナクロなアジア観

 アメリカには建国以来、内向き志向と帝国主義が併存してきた。西部開拓が完成した19世紀後半頃から、対外拡張の時代となり、アジアがターゲットとなる。ペリー艦隊を日本に送り、中国との貿易の中継港を確保。ハワイ王国を併合し、米西戦争で勝利を収めるとフィリピンを植民地支配してしまう。

 1905年には日露戦争の和平を仲介し、日本がロシアから入手した南満州鉄道の利権折半を求めたが失敗。中国での利権をめぐって、日本との因縁は太平洋戦争に至る。アメリカはアジアでのプレゼンス確立のために、米兵約10万人もの血という犠牲を払った。

 戦後は中国利権を独占できるはずが、共産化で実現しなかった。しかし中国が経済開放を一段と進めた90年代半ば以降、米証券会社は中国株の急伸を演出して、しこたま儲けた。現在ではゼネラル・モーターズ(GM)がアメリカより中国で多くの台数を売り上げるなど、中国での利権を思うがままに貪っている。

【参考記事】「共倒れ」の呪文が世界に響くがうさんくさい中国経済脅威論

 以前から米企業はアジアへの投資を増やしてきた。今では日本、中国、韓国、台湾、東南アジアへの直接投資残高は約5000億ドル。アメリカによる世界への直接投資残高総額の約10%を占める。貿易も緊密で、日中韓の東アジア諸国はアメリカにとって、NAFTA(北米貿易自由協定)のカナダとメキシコに次ぐ輸出相手。輸入に至ってはNAFTAの27.3%をも上回って35%強と、断然の首位だ。

アジアでの紛争抑止はアメリカの利益

 東アジア・東南アジアとの貿易でアメリカは約4700億ドル余りの赤字だが、ドルで支払える以上、大きな問題ではない。日本企業だけでも、その対米直接投資で米国民約70万人に雇用をもたらしているし、アジアからの安価な輸入品はアメリカでインフレが起きるのを防いでいる。

 このために、アジアでの紛争を抑止し、貿易と投資の自由を維持することは、アメリカ自身の大きな利益となっている。アメリカの一部論者が言うように「アジアは中国に任せろ」とでもなれば、対中貿易・投資だけでなく、アジア全域でのルールや利権は中国のさじ加減で決まることになってしまう。だからこそ、アメリカはアジアを外交の軸と定め、来年度の国防予算案でもアジア重視継続を明言している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中